わたしのお腹にはにんまり笑顔のシリウスが乗っかっていた。時間は深夜、場所は談話室。わたし達以外に人はいないけれど、おりてこないという保証もない。振り回して暴れたわたしの両手はすでにシリウスの両手によって塞がれていた。足をばたつかせても、余裕の笑み。背筋がぞわりとする。

「なんなのシリウス」
「お前が一人で夜中までかかって課題やってるから、癒してやろうと思ってさ」
「癒してくれなくていいからおりて、時間ないの」
「つれねえな」

そんなことを言いつつ、一向におりる気のない様子のシリウス。思いきり睨みつけると、楽しそうに笑って、わたしの両腕を掴む力を強めた。痛みに少し歪んだわたしの顔を見て、もっと楽しそうな笑顔を浮かべる。

「いいから、どいてよ」
「いやだって言ったら?」
「しね」
「お前、立場わかってる?」

シリウスは膝でわたしのローブをまさぐった。それがこつん、とわたしの杖に当たる。

「魔法も使えないのに」
「シリウスだって同じじゃない」

それだけが、救いだ。放されたらまた暴れてやるんだから。しかしシリウスは、いまだ余裕たっぷりに笑っている。

「そうだよな、じゃあ、こうするか」
「は、」

一瞬だけ、右手が解放された。それにわたしが反応する前に、シリウスは袖の中に隠した杖を手に持ち、わたしの胸にあてた。

「インカーセラス」

さあっとわたしの顔が青くなるのと、シリウスが声をあげて笑うのと、わたしの体にぐるぐるロープが巻き付くのは、同時だった。両腕を塞がれて、起き上がることもできない。

「俺は両手が空いたし、杖だって使える。お前は?」
「…なにする気」
「そりゃあ俺は、いたずら仕掛人って言われるくらいだから、」

ぐっと顔を近付けられ、首だけ横を向くと、そのまま耳元で囁かれた。

「いたずら?」

シリウスの低音の声、しかも息が耳に当たって、再び背筋がぞわりとした。もうわたしに、課題のことを考える余裕などなかった。


見下げた瞳は牙をむく


thanx.睡恋
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