雷蔵、兵助、ハチの三人の調査が終わって、残るは勘ちゃんと三郎の二人。昨日は授業後に委員会活動があって、彼らが一人になるタイミングがなかったので、今日はなんとか調査したいところだ。と、思っていた矢先、ちょうど正面から勘ちゃんがやってきた。なんだか頭の中を見透かされたようだと思ったけど、チャンスはチャンス。なんだか少し疲れた様子の勘ちゃんに駆け寄った。

「にゃー」
「ん?ああ、なまえちゃん」
「にゃあん?」
「疲れてるねって?そうなんだよ、今全力疾走してきたとこでさ」
「にゃ?」
「学園長に捕まりかけたんだ」

まいったまいったと汗を拭っている勘ちゃん。あの学園長から逃げ切るなんて、すごい。なんだかんだ言っても、学園長はかなりすごい忍者っていう話なのに。

「ふふ、驚いてるね」
「にゃん」

首を縦に振る。

「四年生の滝夜叉丸のおかげだよ」
「にゃ?」
「つまり、逃げ切るためには、尊い犠牲が必要だったんだよ」

後輩を身代わりに…勘ちゃん、あくどい。

「滝夜叉丸は先輩にはわりと弱いのさ。深く聞かれる前に逃げてきた。その場にあるものをなんでも利用するのも忍者…って、違うか」

あははと悪びれずに笑う勘ちゃん。勘ちゃんが後輩と一緒にいるところってあまり見ない気がするのだけど、案外普段からしっかり人を観察してるのかも。同じい組の兵助がしっかり者だから、勘ちゃんはなんとなくおちゃらけたようなイメージだったけど、彼だって忍たまだものね。案外しっかり者…とメモしたけど、案外というのはわたしの主観になってしまう。…まあ、いっか。

「ところで、無事に逃げ切れたから時間ができた。なまえちゃん、どこか行こうか?」
「にゃーん!」
「久しぶりに二人だな」

頭を撫でられつつ、そういえば勘ちゃんには言葉の練習をしてたときに、魔法の話も全部したんだったなあと思いだす。そんなに前のことではないけど、もう懐かしい。

「どこに行こうか。こんな山奥だと、すぐに行ける場所なんて限られてるもんな」

うーんと口を尖らせた勘ちゃんに、前に言葉の練習をした時みたいにお喋りするだけでも楽しいし嬉しいよ、と言ってみる。すると勘ちゃんはたちまち嬉しそうにした。

「そうだな!俺もまたゆっくり話したいと思ってたし、食堂でも行こうか」

にこにこして歩き出す勘ちゃん。ああ、表情がころころ変わる。忍者の仕事をするときは、こんな彼の顔からも感情が消えるのだろうか?そんなのはちょっと信じられないというくらい、勘ちゃんは素直で、表情豊かだと思う。そんなこともメモしつつ、歩き慣れた食堂への道をのんびり歩いた。

「なあ、なまえちゃんってさ」
「にゃあ?」
「帰りたいって思うか?」

一瞬、なんの話かと考えてしまった。それほど、今の私にはここが帰る場所になっていたのだ。でも、すぐに思い出す。わたしには他にもっと帰るべき場所、家族のいる場所がいるのだと。一生帰れないのは困る。でも、すぐに帰りたいかと言われたら、そうではない。わたしが黙っていると、勘ちゃんが大きなため息をついた。

「とりあえず帰りたいって即答されなくってよかった。俺の自分勝手な意見としては、もちろんあんまり帰ってほしくないんだ。即答だったらちょっとグサっときてたとこだよ」
「にゃあ…」
「だってさ、なまえちゃん、本気で帰りたいと思ったら、魔法ってやつであっという間にほんとにいなくなっちゃいそうだもん。もしも帰れる時がきても、絶対にお別れは言わせてくれよ?って、なんでこんな話してんだろうな」

勘ちゃんの笑顔に、なんでかちょっと泣きそうになった。ここのみんなは本当にわたしのこと、親身になって考えてくれて。幸せだな。と、そんな話をしている間に食堂についた。

「さて、お茶と茶菓子でも…って、」

食堂を覗きこんだ勘ちゃんが、ばっと顔を引っ込め、わたしを抱え上げた。

「にゃ?!」
「しー!!学園長と滝夜叉丸が話してる!逃げよう!」

滝くんの声が聞こえた気がしたけど、それはあっという間に遠くなった。勘ちゃんはわたしを抱えて走りながら、笑っている。

「結局来た道全力疾走で戻るとか、笑えるな!」

さっきから見ていて、勘ちゃんってほんとに、よく笑うんだなって思う。お気楽、とは少し違う…さっき言ってた素直も、なんか違う…よくわからないけど、いろんなことを純粋に楽しめる才能を持ってる。それに、周りも楽しくしてくれるのよね。なんでもできちゃう兵助とも、病的に口のうまい三郎とも、底抜けに優しい雷蔵やハチとも違うけど、なんでか羨ましいくらい、人を惹きつける。

「にゃあん、にゃーお!」
「よく笑うなって?はは、なまえちゃんがいるからだよ」

ぴょーんと廊下から飛び出して、このまま意味もなく裏山まで走ろうか、と言う勘ちゃんを、わたしは腕の中から囃したてた。



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