今日のターゲットはハチだ。なぜかって言うと、授業後にひとりで門のところにいるハチを見つけたから。みんなわりと、いつも一緒にいるかと思っていたけど、一人でいることも多いのね。

「にゃー」
「お、なまえ!どうした?」
「にゃーん」
「ぶらぶらしてたのか。俺は届け物を待ってるんだ。清八さんが持ってきてくれる約束でさ」

清八さんと言えば、団蔵くんのところの馬借さんの中でも大切な物を運ぶ人だった気がする。一体、何が届くんだろう?

「にゃ?」
「俺宛じゃないよ、学園宛さ。毒を採るために使う毒虫が届くんで、生物委員の出番ってわけだ。俺以外は、小屋にスペースを作ってる」

また増えるのか、毒虫。ていうか、孫兵くんのじゃない、学園所有の毒虫もちゃんといたんだな。

「今回のは結構強力な毒を持つやつで、上級生にならないと学習しないから、下級生には扱わせたらいけないやつなんだよ。まあ孫兵なら心配はいらないだろうけど、一応規則だからさ。俺が一人で待ってんだ」

そんな怖い毒虫が。いつもの小屋はしょっちゅう誰かに壊されて、しょっちゅう虫たちが脱走してるけど、あそこでいいのだろうかと思ったけれど、わたしがどうにかできる問題ではないので黙っていた。ハチはなにやらその毒虫の詳しい説明をしてくれているけど、難しくてわからないのでわたしは聞き流していた。ハチは、孫兵くんには負けるかもだけど、かなり毒虫に詳しいんだ。孫兵くんが強烈すぎるのと、ハチは単に面倒見がいいこともあって、目立たないけど。わたしは頭の中に、毒虫マニアック、とメモして、聞こえてきた馬の蹄の音に耳をすました。

「…お、来たな」

ハチも、動物みたいに耳がいいので、すぐにそれに気付いた。ていうかハチは野生動物っぽい、とわたしは思う。山でも虫とか食べちゃうし。魔法使いのお菓子はなかなかゲテモノ揃いなのでわたしは免疫があったけれど、普通の女の子は虫を食べるハチの姿を見たらドン引くんではないだろうか。なんて考えていると、ようやく馬と清八さんの姿が見えてきた。見えてから門に到着するまではあっという間だ。さすが、清八さん、

「やあ、竹谷くん、それになまえちゃん」
「清八さん、お疲れ様です!」
「にゃーん」
「これが例の毒虫です、気を付けて…あと、ここに受け取りの署名だけお願いします」
「はい」

ハチがスラスラと名前を書くところを見て、清八さんが微笑んでいることにわたしは気が付いた。ハチの肩に飛び乗って見ると、ハチの字はとても汚い。まあ、ハチらしい、豪快な字だ。でも笑ったらさすがにかわいそう…と思ったけれど、わたしは唐突にその理由がわかった。清八さんが若旦那と呼んで慕う団蔵くん、彼もとても字が汚いのだ。わたしは頭の中に、ハチは字が汚い、とメモしかけたけれど、レポートにそんなことを書くのもなんだかなので、やめておいた。

「それじゃあ、俺はこれで」
「ありがとうございました!」
「にゃー!」

馬で颯爽と去っていく清八さんに尻尾を振り、それからハチが抱えた木の箱を見る。中では何かがゴソゴソいっていた。

「良かった、元気みたいだな」

箱の音を聞いて明るく笑うハチに、ああやっぱりハチのこういうところ素敵だな、と思った。ハチはいつもどんな生き物にも平等に優しくって、思いやりを持って接することができるのだ。これはハチを語る時には絶対に欠かせない、彼の一番いいところだと、わたしは思う。メモするまでもない、しっかりと頭に刻まれている。わたしも、きっとハチのこの性格のおかげでここにいられるんだなぁ、と思った。

「なまえ、なに嬉しそうに笑ってんだ?小屋行くぞ」

ハチの言葉で、彼がもう何歩か進みだしていたことに気付く。わたしは慌ててそれを追った。わたしの微妙な表情の変化を一番わかってくれるのも、ハチなんだ。そう考えながら、ハチの隣を並んで歩いく。ふと、いつもはお喋りなハチが珍しく黙っていることに気付いて、わたしはハチの顔を見上げた。

「…にゃあ?」
「…なまえ。初めて会った日のこと覚えてるか?なんか、急に思い出しちまった」

ハチは笑っていた。

「にゃあ、にゃあ」

覚えてるよ、もちろん。わたしは答えた。野良猫になりかけたわたしを、ハチが救ってくれたんだもの。

「にゃーん、にゃおーん」
「なまえもさっき、会った時のこと思い出してたって?」
「にゃん、にゃあん」
「それ…」

タケヤ、ハチザエモン。ハチのほんとの名前だって、ちゃんと覚えてる。わたしがどう?って顔で笑ったら、ハチは急に立ち止まって、木箱を下に置いて、わたしを抱き上げた。

「なんか俺、今すげぇ嬉しいわ。なまえ、好きだぞ!」
「にゃ?!」

突然の告白と、なんだか泣きそうな勢いのハチに、どうしらたいいかわからなかったけど、とりあえず大人しくしていた。そして、頭の中には、ハチは感動屋さんとメモ。なんだか今日のハチ、可愛いかも。

「…はぁ!ありがとうな、なまえ。俺、今日はいつもより頑張れそうだ!」

わたしを解放して、いつもの笑顔を見せた後、また木箱を抱えて歩きだしたハチ。わたしは、こっちが元気をもらっちゃったなと、緩む頬をちょっと隠しながら、そのあとをついて行くのだった。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -