翌日。昨日のように、授業を終えて学園を歩き回っていたら、穴に落ちた。タコツボトラップだ。久しぶりにやっちゃったなぁと思いながらどうやって脱出するかを考えていたら、ひょっこりと穴から頭が覗いた。見覚えのある、ゆるいウェーブのかかった綺麗な黒のポニーテール。

「にゃあ!」
「なまえ、大丈夫か?今、俺、落ちる瞬間見ちゃったよ」

苦笑いの兵助は、優雅にジャンプして、わたしの隣に降り立つ。それからわたしを抱き上げて、手も使わず穴から飛び出してしまった。すっごい跳躍力。

「にゃん!」
「礼なんていいよ。むしろ落ちるところ見えたのに、助けられなくてごめんな」

地面にわたしをおろして、頭を撫でる兵助。よし、今日のターゲットは兵助ね。とりあえず、運動神経がいいことを頭にメモりつつ、兵助に話しかける。

「にゃあ。にゃん、にゃん?」
「それはいいけど、これから何する予定なの?って?うーん、あんまり考えてなかったんだよな。今日ろ組は午後実技で長いし、勘ちゃんも課題が終わらないみたいで、一人ですることなくてさ。なまえは?」
「にゃおーん」
「そっか、お前も暇なんだ。んじゃあ、どっか行くか?なまえと二人ってのも、珍しいし」

わたしは頷いて、どこに行こうかなと考える。

「金もあんまりないし、海でも行く?時間くらい潰せるだろ」

海、いいな。前に勘ちゃんと行ってから、行っていない。砂浜に足跡を付けて歩くのは、ワクワクして大好きだ。

「にゃん!」
「よし、そうしよう。外出許可もらわないとな。まず着替えてくるから、事務室向かって待っててくれるか?」

また頷いて、一旦別れてわたしは事務室に向かった。事務室と言えば、わたしにとってちょっと怖い吉野先生。怒っている印象が強いのだ。事務室に着いてしまって、部屋の外で座って待っていたら、私服に着替えた兵助が戻ってきた。

「中で待ってたら良かったのに」
「にゃあ…」
「え、吉野先生がちょっと怖い?はは、そんなことないよ、いい先生だよ」

言って兵助はガラッと事務室のふすまを開けた。いつものように、吉野先生と事務のおばちゃん、それに小松田さん。

「外出許可をもらいに来ました」
「ああ、久々知くんですか。すぐに手続きしますね」
「ありがとうございます、あとなまえも一緒なんですけど」

吉野先生に一瞥され、ちょっと兵助の足に隠れる。

「わかりました」
「ありがとうございます」

わたし達はアッサリと外出許可をゲットして、ついでに小松田さんの出門表にサインして、学園を出た。

「にゃーん!」
「いや、吉野先生はいつもあんな感じだよ」
「にゃあ…」
「あはは、まあ、俺は結構優等生な方だし、評価はいいのかも」

しれっと自分でそんなことを言ってしまう兵助に、もはや拍手。わたしは頭の中に、兵助は先生から信頼されている、とメモ。先生受けがいいとか書くと、提出するレポートとしてはあんまりよくないしね。同じい組で優秀な勘ちゃんとの差。前に勘ちゃんも、兵助は完璧主義でテストもちゃんと見直しするって言ってたものね。わたしはあんまりしない方。

「さ、行くか」

兵助の足元をゆっくり歩く。学園を囲む林を超えたら、海はすぐそこだ。もうすでに波の音が聞こえていた。

「そういえばなまえって外国から来たんだよな。あまりに自然に、会話もできるし生活にも馴染んでたから、忘れてた」
「にゃあ?」
「興味あるかって?そうだな、外国自体にもちょっと興味あるし、なまえが暮らしていたのがどんな環境なのかなっていうのも気になる」

兵助は上を見上げながら言った。

「にゃあん、にゃあ、にゃあ」
「日本のがいいところもあるけど、外国のがいいところとたくさんある、か…そうだよな、全然知らないけどそうなんだろうって思うよ。実はさ、なまえに会ったばかりの頃、色々調べたりしたんだ。こことはまるで違う生活をしてたんだって程度にしかわからなかったけど、それでもなまえには大変なんだろうなって思った。猫の表情とかさ、あんまりわかってやれなかったこともあったかもしれないけど、心配はしてたんだ」

急に語られた兵助の言葉に、なんだかわたしは胸がジーンとしてしまった。こんなに考えてくれてたのかぁって改めて。兵助は五年生の中ではお喋りな方ではないけれど、人を気遣っていろんなこと考えられる人、とわたしは胸に刻んだ。

「ほら海見えてきたぞ。俺、泳ぐの好きなんだ。さすがに今は泳げないけど…なまえは?」
「んー…にゃあん」
「得意?じゃあ今度また休みの時にでも来ようか」
「にゃあ!」

雷蔵とも、兵助とも。約束がたくさんできていくのは、嬉しいことだ。一応兵助は泳ぐのが好きって書き留めたけど、兵助って基本的になんでもできるんだよね。きっと、寮対抗クィディッチのチームにも選ばれるタイプ。

「潮風がきもちーなぁ。ああ、なんかお腹減ってきた」
「にゃ?にゃおん」
「夕飯はまだまだ?わかってるよ、でも今日は冷や奴だから楽しみだ」

笑顔の可愛い兵助。兵助といえばこれ、豆腐小僧よね。真面目で優しくって運動神経も頭もいい兵助の、なんだか人間らしいこういうところ、好きだなぁと思った。


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