今日は、昨日言われた通り、実習で町に来ている。実習の内容は、町の様子から戦の前触れを見つけること。どういうことかな、って思ったら、男性の下着がよく売れるだとか、炭がよく売れるだとか、そういうことらしい。忍者はいち早く戦の気配に気付くために、そういうのわからないといけないんだろうな。

「なまえも、何か気付くことがあれば、私に言ってごらん」

今までわたしの隣で、は組のみんなが前触れを探しているのを見ながら解説してくれていた山田先生が、言った。わたしは頷いて、町に駆け出す。何か気付くことかあ。わたしには思いもよらないことが、戦に繋がっていたりするもんなあ。





ふらふらと「前触れになりそうな何か」を探して歩いていたら、ガタンと何かにぶつかってしまった。一瞬衝撃にくらっとしたけど、怒ったおじさんの顔が見えて、本能的に体が動き、その場を逃げ出す。どうやらおじさんのお店の荷箱にぶつかり倒してしまったみたいだ。ごめんなさい、と思いながらも、全力で、追ってくるおじさんから逃げた。でも、おじさんはなんでかすごくしつこくて、なかなか声が遠くならない。箒、箒があったらあっという間なのに!と思った瞬間、石に躓いた。体が浮いて、やばいと思ったとき、ふっと世界が暗くなる。そして、柔らかい衝撃。何か柔らかいものに飛び込んでしまったみたいな、感じ。

「んにゃ〜…」
「そう動くんじゃないよ」
「にゃん?!」

上から声が降ってきて、視界が明るくなる。目の前に包帯ぐるぐるの顔があって、びくっとしてしまった。

「酷い反応だな。知らない仲じゃないし、助けてあげたのに」
「にゃ、にゃあ…」

わたしは、雑渡さんに抱きかかえられ、路地裏にいた。わたしを引っつかんで、路地裏に引き込んでくれたみたいだ。

「おや。また会えたから紐を返してあげようと思ったのに、もう違うのを付けているのか」

雑渡さんがプランと取り出したリボンに、わたしは飛び付いた。自分でも結構素早い動きだったと思う。雑渡さんはちょっと驚いて、それを手放した。

「以外と素早いな」
「にゃん!」
「ありがとって…どれに対して言ってるんだい」
「にゃあ、にゃーお、にゃん」

褒め言葉と、助けてくれたことと、リボンのこと。と言うと、雑渡さんは目を細めた。笑ったんだと思う。

「本当に面白い猫だな、君は。嫌味を言う猫、なんて君くらいだろう」
「にゃ…」

急に頭を撫でられて調子を崩される。なんなのもう。

「面白い。今日はもう行かねばならないが、また君に会いたくなった。今度は紐は盗らないけど、私のことを忘れるなよ」

そう言うと雑渡さんは、一瞬で消えてしまった。ポカンとした後、なんだか雑渡さんに気に入られてしまったのかなぁと、考えた。でもまあ、助けてくれた雑渡さんはなんかちょっと格好良く見えてしまったので、また会えたら今度はもうちょっと優しい対応をしよう、と思った。





ふらふらとリボンをくわえて路地裏を出ると、ちょうど通りかかった兵太夫くんがわたしに気付いてくれた。

「あ、なまえさん!もう、集合の時間ですよ。一緒に行きますか?」

わたしが、リボンをくわえていて喋れないので、頷いて答えると、兵太夫くんもリボンに気が付いた。

「あれ、なまえさん。それ、前にしていた紐ですよね。見つかったんだ」

良かったですね、と笑う兵太夫くん。雑渡さんとの話は知らないようだった。

「歩きにくそうだから、学園まで僕が持ってあげましょうか?」
「にゃん?」

いいの?と聞くと、兵太夫くんはにこっとしてリボンを受け取り、制服にしまってくれた。こうやって優しくしてもらって、改めて考えると、雑渡さんはやっぱり意地悪だったな。


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