翌朝、ご飯も済んで、午前の授業に向かう途中。一人、いや一匹?で歩いていたら、前からすごいスピードで走ってくる二人組が。何故か、縄で繋がれている。黄緑だから、三年生だ。わたしが呆然と立ち止まると、二人はわたしの前でキキィと急停止した。

「もしかして噂のなまえさん?!」
「ああ!孫兵の言ってた!」
「あれ、けど話で聞いてたのと紐の色が違う!赤って言ってたけど桃色だぞ!人違いか!」
「猫違いだろ左門」
「ああ!」

な、なんだこの二人。変なの。そして、案外リボンはわたしの目印になっていたんだな。こんにちは、わたしがなまえだよ、と挨拶してみる。

「うわあ!本当に話せるのか!」
「すごい!」

目をキラキラさせる二人に聞きたいことはたくさんあった。例えば、なんで縄で繋がってるの、とか。なんで走ってたの、とか。名前は、とかとか。でもわたしには、生憎授業がある…

「あ!そうだ!三之助、僕達は学園長先生のところに向かってたんだった!」
「そうだ!急げ!」
「なまえさんも一緒に!」
「にゃあっ?!」

どうやら左門くんと言うらしい、おかっぱの方の子に乱暴に抱き上げられ、わたしは学園長のところへ連れて行かれるらしい。なんで?!

「にゃーん!」
「実は学園でくせ者を見たんです!学園長先生に早く報告しなきゃ!」
「にゃあ!にゃあ!」
「え?学園長の庵はこっちじゃない?」

再びキキィと止まる二人。学園にはそんなに詳しくないけど、学園長の庵がこっちじゃないことくらいわたしも知っている。というか、真逆。左門くんと、三之助くん、だったかな?二人は顔を見合わせてから、今から行こうとしていた方向を見る。

「こっちな気がするけどな」
「進退は疑うなかれ!とりあえず進め!」
「おう!」
「にゃー!」

うわあ、最悪!どうやらとってもおばかな二人に捕まったようだ。三年生なら、学園の内部くらい、覚えなさい!授業には、行けそうにない。むしろ、学園長の庵にすら行き着けないかもしれない。




「にゃー!にゃー!」
「次を右か!」
「うにゃああああ!」
「え、こっちは左?じゃあこっちか!」

わざとじゃないかと思う方向音痴っぷり。わたしは叫び疲れた。なんで走るの!なんで左右がわからないの!どれだけ遠回りするの!わたしは左門くんの腕を引っかいた。イテッと一瞬開いた腕から飛び降り、二人の前に立ち走り出す。もう授業は間に合わないし、くせ者は気になる。雑渡さんじゃないのかな?

「なまえさん?」
「にゃあ!」
「ついて来いって」
「よし!」

二人が追ってきたのを確認して、スピードをあげる。学園長の庵には、さっきよりも、少しではあるけど近づいている。しばらく走って曲がり角で一度後ろを確認して、開いた口が塞がらなくなった。二人がいない!一直線の道で、わたしを追いかけるだけなのに、一体どうやって迷ったんだ!もう呆れを通り越して、尊敬できるレベルだ。とりあえず学園長の庵に向かおうか、けどわたしはくせ者の特徴など何も聞いていない。雑渡さんは有名なようだから、雑渡さんではないのかな。あ、それより先に土井先生に伝えるべきかな?迷っていたら、再び走る足音が聞こえた。左門くんと三之助くんか、と振り返るけど、そこには別の子が。黄緑の装束で、切れた縄を持っている。まさか。

「にゃー!」
「へ?あ、うわ、なまえ、さん?」
「にゃあ!にゃん?」
「え、左門と三之助、見ましたか?!あの二人、動き回るから探しても見つからなくて!迷うんだからじっとしててくれれば助かるんですけど…」

まともな子もいたのね!わたしはホッとしつつ一部始終を話した。

「うわ、すみません!授業の邪魔しちゃって!」

君は悪くないよ、と声をかける。

「あ…俺、作兵衛、富松作兵衛です」
「にゃあん」
「はい、よろしくお願いします。…ところで、なまえさん、今から授業出ますか?」

作兵衛くんの言葉に、首を振る。今さらだ。土井先生ごめんなさい。

「じゃあ、俺と一緒に、とりあえず学園長の部屋まで行ってくれますか?その後、左門と三之助を探します」

疲れた表情の作兵衛くんに、頷いた。あの二人と毎日一緒は、相当体力と気力が必要だろうな。


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