わたしと勘ちゃんが、三郎と雷蔵の分まで席を取って待っていると、疲れた顔の二人が食堂に入ってきた。競争にも負けた二人は、運悪く廊下を走っているのを木下先生に見つかって、怒られたらしい。ちなみに、わたし達はギリギリ見つからなかった。

「勘右衛門には負けたけど、なまえには負けてないからな」

三郎は取ってあった席に座るなり、わたしを睨んだ。わたしは三郎を無視して、三郎より疲れた様子の雷蔵の横にいき、ぽんぽんと膝を叩いた。

「にゃん?」
「うん、大丈夫。ありがとうなまえ」
「そういうの、差別だと思うけどな」
「にゃー」
「三郎の普段の態度が悪いってさ」
「お前、ほんとに可愛くないなあ」

三郎がわたしの額を、ちょんと突いた。

「まあまあ、ご飯とりにいこ、三郎。勘右衛門はどっちがいい?」
「ありがとう。Aセットで頼むよ、雷蔵」
「わかった」

雷蔵と三郎が立ち上がった。勘ちゃんも、お茶もらってくるね、と立ち上がる。わたしはしっぽを振って見送った。一人になったので、暇で、食堂を見回す。遅かったからか下級生の姿は見当たらず、上級生がぱらぱらと食事をしていた。あ、伊作先輩と小平太先輩が手振ってる。わたしは机に前足を乗せて掴まり立ちして、しっぽを振り返した。でも、まだ話すのはやめよう。他の人よりも先に、ハチと兵助に教えたいのだ。と、ニコニコした先輩達が視界から消えた。勘ちゃんが帰ってきたのだ。

「にゃあ」
「うん、ただいま」

勘ちゃんは三つの湯のみと、わたし用に茶碗に注いだお茶とを、机に置いた。

「あー、お腹減ったね」
「ほら勘右衛門、Aセット」
「あ、三郎ありがとう!」
「にゃん?」
「雷蔵はまだ迷ってる」

三郎は器用に三つのおぼんを持って戻ってきた。にゃあんとお礼を言って、食べはじめる。悩みに悩む雷蔵を待たないのは、いつものこと。

「あ、兵助達な」
「にゃ?」
「明日の昼か夕方には帰れるって言ってたぞ」

三郎が豆腐を突きながら言った。豆腐を見て思い出したんだろう。わたしはこくんと頷くと、食事を再開した。それに倣うように、二人も黙々と食べる。いつも率先して話題を出してくれるのはハチか雷蔵だからだろう。そういえば雷蔵戻ってこないなぁ、と思っている間に食堂からどんどん人がいなくなっていくのも、いつものこと。ようやく戻ってきた時には、わたしは最後の一口を残すのみだった。三郎と勘ちゃんはすでに食べきって、先生や授業や委員会の話をしていた。

「にゃーん」
「ただいま」
「あれ、今日は一つに絞れたのか」
「うん。悩みに悩んだけど、Bセットの方がボリュームあるし、たくさん売れたっておばちゃんが言ったから」

ここで、Aもおいしかったのになどと言えば、さらに30分は軽いだろうから、絶対言ってはいけない。早食いの雷蔵が食べ終わるのを待って、わたし達は一番最後に食堂を出た。

「さて、後は風呂に入って寝るだけだが、なまえ」
「にゃ?」
「ハチと兵助の部屋で寝るのか?それとも、私と雷蔵の部屋にくるか?」

ちょっと悩んだけれど、今日は三郎と雷蔵の部屋にお邪魔することにした。何度も遊びに行ってるけど、お泊りは初めて。なんだか人間の感覚で言うと、とてもいやらしい感じがするけど、最近のわたしはそういう感覚がすっかり麻痺している。みんなも猫として扱うし、わたし自身、猫の扱いに慣れてしまった。まあ、話しかけたりするんだから、本物の猫として扱うのとはちょっと、いやだいぶ違うけど。でも、人間の女の子が日替わりで別の男の子の部屋で寝たらマズイものね。


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