「にゃあ」
「おやすみ」
「にゃあん」
「お腹すいた」
「にゃーお」
「がんばって」
「にゃん、にゃん!」
「うん、全部通じてる!」

にこっと勘ちゃんが笑った。一度話が通じた後は、得に苦労せずに話せるようになった。でもやっぱり、なんの気なしに言った呟きなんかは、伝わっていないようだった。本当に不思議だ。でも、とても幸せだ。忍術学園に来て、一番楽しいかも。これから、みんなと話ができると思うと、心が躍った。そこで、ふと、朝のハチの言葉を思い出した。

「にゃあ、にゃん?」
「え、なまえちゃんの声?」

声は、人間のわたしと、同じなのだろうか。もちろん勘ちゃんはわたしの人間だった頃の声なんて知らないけど、雰囲気だとか、知りたい。勘ちゃんはしばらく悩んで、言葉を探す。

「声…は、イマイチわからないんだ。耳で聞こえるのは、猫の言葉なんだけど、頭に直接意味が伝わってくる、って言うのかな。頭の中で、自動翻訳される感じなんだ」
「にゃ…?」
「うーん、体験しなきゃわかりにくいよなあ、この感じ。とにかく声というよりは、情報が伝わる、って感じ」
難しい。でも、なんとなくわかる、ような。

「確かに、なまえちゃんの声も、聞いてみたいな」

勘ちゃんがわたしの頭を撫でた。気持ち良くて、目を閉じる。あー落ち着くなあ、雷蔵とは違う感じの、癒しオーラが出ている気がする。そのまましばらく、勘ちゃんとまったりしていると、三郎と雷蔵が通りかかった。

「あれ、勘右衛門じゃないか。お前、なまえと仲良かったか?」
「さっき会ったんだ。さっき仲良くなった」
「そういえば、勘右衛門にはなまえを紹介してなかったね」
「ところで、二人はこんな中途半端な場所で何をしてたんだ?」

三郎が首を傾げた。確かに、ここは学園長の庵から長屋に戻る途中の、何もない廊下だ。だからこそ、特訓中だれも通らなかったんだろうけど。

「せっかく出会ったから、色々話を聞いてたんだ。二人は、どうしてここに?」
「僕達は、図書室の古書を蔵に置きに行った帰り」
「それに、もうすぐ夕飯だぞ。お前達、昼に来なかったろ」
「あ、忘れてた」
「来なかったから、なまえは兵助達についていったのかと思ってたよ、僕」
「言われたら、急にお腹すいてきたよ。な、なまえちゃん」
「にゃあ、にゃあ?」
「え?今日の献立?今日は確か…」
「ち、ちょっと待て雷蔵!今なまえ、なんて?」

三郎が雷蔵の言葉を遮って、びっくりした顔でわたしを見た。わたしと勘ちゃんは目を合わせて、くすっと笑う。

「何?三郎」
「いや雷蔵、今のお前も聞いたろ?なまえの言ったこと、理解できただろ?」
「………あ!」

雷蔵も一歩遅れて、真ん丸の目でわたしを見た。

「なまえ、どうして?」
「実は今、なまえちゃんと一緒に、喋る練習してたんだ」
「にゃあん」
「それに夢中で昼飯を忘れてたって…嘘だろ」
「でも、なまえはほんとに喋ってるよ…すごいなあ」
「にゃあ!」
「ヘムヘムにコツを?それだけ?」

わたしはこくんと頷く。勘ちゃんも、二人に魔法のことを言ってないと言ったので、黙っていてくれた。雷蔵はすぐに信じてくれて、すごいすごいと頭を撫でてくれたけど、三郎はなかなか信じようとしなかった。

「じゃあさ、三郎様素敵って言ってみろよ」
「にゃーん」
「心にもないことは言えないってさ」
「あー、そうかそうか!わかったよ。この憎たらしさは間違いなくなまえの言葉だよ。認める」

わざとらしく嫌そうな顔をした三郎に、わたしもツンと顔をそらした。そのやり取りに苦笑いした勘ちゃんが、そろそろ食堂に行こうか、と提案すると、わたしは三郎にべーっと舌を出して駆け出した。

「にゃあっ」
「競争ってお前、今のは反則だろ!フライング!」

そう言いながらも、全力で追いかけてくる三郎。うわ、早い早い。すぐにギリギリまで追いつかれてしまう。

「ふっ、忍者の足を舐めるな」

しかし、三郎がわたしと並んだ時、突然体がふわっと浮いた。びっくりして頭上を見たら、いたずらっぽい笑顔の勘ちゃんがいた。

「い組の足舐めないでよ」
「げ、勘右衛門…それこそ反則だろ!」

風のように三郎を抜き去ると、勘ちゃんは食堂に一直線で走った。後ろから三郎のわーわー言っていたけど、聞かないふり。勘ちゃんかっこいい!とわたしが言うと、そうかな?と照れたような返事が返ってきた。食堂はもうすぐだ。


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