長次先輩は、前よりも積極的にわたしを助けてくれた。小平太先輩は不満そうだったけれど、わたしとしてはとてもありがたかった。授業は、小平太先輩に連れて行かれることもあれば、危険だから来たらダメだ!と言われる日もあった。六年生の授業は聞いていてわからないから、眠くなるんだけど、小平太先輩にちょっかいを出されるので、眠ることはあんまりなかった。小平太先輩も超体育会系なので、授業はつまらないのだろう。長次先輩は、いつもとても真面目に授業を受けていた。小平太先輩もわたしも寝てしまった時は、授業が終わった後に、そっと揺すって起こしてくれる。この数日で、わたしの中の長次先輩の立ち位置は、完全にお父さんのポジションで定着した。授業後は、小平太先輩のランニングに付き合わされる前に、長次先輩の肩に逃げる。長次先輩はいつも、図書室に向かう。今まであまり縁のない場所だったけれど、図書室は静かで落ち着く。ホグワーツのような広さはないけど、やっぱりどこか雰囲気は似ている気がする。ここには、図書委員の子が日替わりで係の仕事をしにくる。きり丸くんの日は、たくさん色んな話を聞かせてくれる。バイトの話とか、乱太郎くんとしんべヱくんとの冒険の話とか、忍術学園の色んな先生や生徒の話とか。怪士丸くんの日は、怖い話とかを教えてもらったりする。怖い話をしているときの怪士丸くんは、楽しそうだ。日本の怖い話というのは、イギリスよりも、背筋がゾワッとするようなものが多い。もしホグワーツに戻れたら、みんなに話してやろう。シリウスやピーターはきっと、オーバーに怖がってくれるだろう。久作くんの日は、まだ猫のわたしに話しかけるということに照れがあるのか、黙々と作業する久作くんをわたしが見ている、ということが多い。たまに手伝うと、照れながらありがとうございます、って言うのが可愛い。

「中在家先輩!終わりました」

今日の仕事が終わったらしい久作くんは、貸し借りのカウンターに座って本を読んでいた長次先輩に声をかけた。長次先輩は顔を上げると、こくんと頷き、戻っていいぞ、と呟いた。久作くんは図書室を出ていきかけて、わたしを振り返る。
「なまえさん、ありがとうございました」

わたしは首を振って、するりと図書室を出た。もう少し、久作くんと話していようかと思ったのだ。

「なまえは、雷蔵先輩と仲がいいんですよね?」
「にゃん」
「明日は、雷蔵先輩の当番なんですよ」

わたしが首をかしげると、久作くんは遠くの山を見た。そろそろ夕方、という時間。

「五年生は、本当は明日帰ってくる予定だったんですけど、少し早く片付いたから、今日の夕方には帰ってくるそうですよ」

久作くんの言葉に、心が跳ねた。自分でも恥ずかしいくらい、みんなが恋しかったようだ。わたしがウズウズしていると、後ろから足音が聞こえた。久作くんと一緒に振り返ると、長次先輩だった。長次先輩は屈んで、わたしの顔を見た。

「一緒に、門まで行くか」

わたしは力一杯頷いた。久作くんも、にっこりしていた。



長次先輩の足元を、少し早足でついていく。夕陽は山に沈みかけている。門に着くと、みんなの姿はなかったけれど、小松田さんが掃除をしていた。

「中在家くん、出掛けるの?」

長次先輩は首を振って、五年生はまだ帰ってきていないかと聞いた。小松田さんはそれを聞き取れなかったので、結局わたしが地面に書いた。

「ああ、まだだけど、もうすぐだと木下先生から連絡が入ってるよ」

小松田さんが言い終わる前に、足音が聞こえた。わたしが門の外へ飛び出そうとすると、小松田さんに胴を捕まれた。

「なまえちゃん!外出届をもらってないでしょ!」

ああもう、ちょっとでるだけなのに!小松田さんの腕の中でもがいているうちに、足音は門のすぐそばに迫り、私服の五年生が現れた。道を開けるために一歩脇にどいた小松田さん。わたしは暴れるのを止めて、集団の中からハチ達を探しだそうと目を凝らした。しかし、みんなは簡単に見つかった。みんなの方がわたしを見つけて、駆け寄ってきてくれたのだ。一番はハチだった。

「なまえー!」

小松田さんからかっさらうようにして、ハチはわたしに抱きついた。わたしも、頬をすりよせて、喜びを表す。

「ハチずるいぞ!」
「そうだぞ!」

どさ、どさ、と圧迫感が増した。三郎と兵助も、ハチごとわたしに抱きついてきたのだ。一歩遅れて雷蔵も、少し照れ臭そうに、抱きついた。

「あー、このフワフワ感、久々だな!」
「一週間だけどな」
「十分長かったよ!」
「確かに」

みんなが口々に言って、笑った。みんなが無事で本当によかった。再開を喜びあっている時、ふと、ハチと三郎の頭の間から、長次先輩の顔が見えた。わたしは三郎の肩を踏み越えて、長次先輩の足元に飛び降りる。雷蔵も慌ててわたしの隣に立った。

「中在家先輩、ありがとうございました!」
「にゃーん!」

長次先輩は雷蔵に向かって一つ頷いて、わたしの頭を撫でて、長屋の方に戻って行った。長次先輩、優しかったなあ。いつの間にか、周りにいた五年生の集団は、いなくなっていた。

「なまえ見たら、帰って来たって感じするなー」
「俺、なまえ見たら腹が減ってきたよ」
「にゃん!」
「怒んなよ、安心したって意味だって!」

ああ、この感じ、やっぱり五年のみんなといるのが、一番居心地がいいな。


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