作法委員のみんなが言っていたように、その日文次郎先輩は帰ってこなかった。徹夜で帳簿計算、だろうか。その夜はとても平和だった。


しかし、翌朝の朝食の席には、六年生が集合していた。徹夜明けのせいか、文次郎先輩はいつも以上にギンギンしている。伊作先輩も目の下に隈がある。六年生以外にも、疲れた様子の生徒がたくさんいた。忍術学園の委員会活動は壮絶なようだ。

「さて」

食事も一段落ついたところで、ずっとウズウズしていた小平太先輩が口を開いた。

「なまえ!お前は誰と一緒が一番居心地がよかった?」

ずいっと顔を近付けられる。わたしも、昨日色々考えたのだ。仙蔵先輩と文次郎先輩の部屋は、少し肩身が狭い。伊作先輩と留三郎先輩の部屋は、夜が怖い。小平太先輩と長次先輩の部屋は、疲れる。まあどの部屋だって、申し訳ないけど、ハチと兵助の部屋には敵わないのだ。それでも、選ぶなら、やっぱりこの人しかいない。わたしはぴょんと、長次先輩の膝に飛び乗った。

「長次…ってことは、やっぱり私達の部屋がいいんだな!なまえー!」

小平太先輩がまたわたしに抱きつこうとしたけれど、長次先輩がわたしを抱き上げ、助けてくれた。

「まあ、確かに長次が一番適任だろうな」
「なんなら小平太の方を預かろうか?」

留三郎先輩が笑って言った言葉に、小平太先輩がいーっとした。小平太先輩の奔放さを補って余りある、長次先輩の包容力。長次先輩が一緒にいて一番落ち着く。さすが、雷蔵が信頼してる先輩だ。あ、もちろん、小平太先輩も好きだよ。

「よーし!私、今日の授業は頑張れそうだ!いけいけどんどーん!ごちそうさまー!」

急に生き生きしだした小平太先輩は、食器をさげると、食堂から飛び出して、ランニングを始めた。元気だなぁ。

「俺達もそろそろ行くか、伊作」
「そうだね…授業の前に少し眠れないかな」
「文次郎、今日も実習だぞ。途中で倒れるなよ?」
「わかっている!」

ぞろぞろ、他の先輩達も立ち上がり、食堂を出ていく。長次先輩も、わたしを椅子におろし、自分のお盆を持った。が、何か思い出したようにわたしの方を向いて、わたしの頭を撫でた。

「ありがとう」

長次先輩が微かに微笑んで見えた。あ、かっこいい。長次先輩の笑顔は怖いって聞いたけれど、全然、素敵だ。ありがとうって、頼ってくれて、みたいな意味かしら?なんだか急にドキドキし始めたわたしを椅子に残し、長次先輩は食器をさげに行った。それから、ちらりとわたしの方を振り返る。おいで、ってことだろう。わたしは慌てて椅子を飛び降り、長次先輩を追った。


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