ご飯の間に、文次郎先輩も戻って来た。仙蔵先輩によると、今日の六年い組の授業は面倒な実習らしいので、今日は久しぶりに、一年は組と一緒の授業になる。教科書をくわえて意気揚々と歩いていたら、あらなまえちゃん!と声がした。振り返ると、食堂のおばちゃん。

「今ちょっと時間いいかしら?急ぎの用事があるんだけど」

おばちゃんの言葉に、わたしはこくんと頷いた。授業は、わりと受けたり受けなかったりだし、土井先生はその辺に寛大だ。わたしの返事に、おばちゃんは嬉しそうに笑った。

「ごめんね、助かるわ。」

おばちゃんのお願いは、お弁当を忘れて出かけた学園長に、お弁当を届けてほしいということだった。おばちゃんは今から買い出しに行かなければいけないらしい。土井先生にそのことを伝えて下さいとおばちゃんに頼むと、笑顔で承諾してくれて、お弁当のおにぎりを渡された。



学園から町までは、もう何度か通ったので、覚えている。走って町まで行くと、茶店に学園長先生の姿を見つけた。実は学園長先生と話したことがないので、ちょっと緊張していたけれど、学園長先生はわたしのことを知ってくれていた。お弁当を渡すと、お礼にとお団子をくれた。



しばらく学園長先生と話して、というか学園長先生が一方的に話すのをわたしが聞いて、町から学園まで戻ると、ちょうど鐘が鳴った。午後の授業が終わったのだ。は組のみんなが遊びに出てくるかなぁと思ったけれど、その様子はない。窓から部屋を覗けば、なんだか慌ただしい様子だった。何かあったのかと、六年の長屋まで足早に戻る途中、ばったり仙蔵先輩と会った。

「ああ、なまえ。今ちょうど探していたんだ」
「にゃん?」
「今から委員会が始まる。一緒においで」

仙蔵先輩はわたしを抱き上げると、ひとつの教室に入った。普段、授業に使われることのない教室だ。中には知った顔が、二人。

「おやまぁ、お前はいつかの」
「あれ?なまえさん?」
「なんだ、知り合いか」

隣の席の兵太夫くんと、前に穴から助けてもらった、喜八郎くん、だったかな?仙蔵先輩がわたしを床に降ろすと、兵太夫くんが寄ってきた。

「今日、大変だったみたいですね」

わたしが頷くと、仙蔵先輩がちらっと兵太夫くんを見た。

「何で兵太夫が知っているんだ?」
「なまえさんは普段、一年は組で一緒に授業を受けてるので。今日は来れないって、土井先生がおっしゃってたんです」

ほう、と感心する仙蔵先輩と、ぽかんとする他の三人。仙蔵先輩と兵太夫くんが簡潔に、わたしの説明をした。いい加減、わたしの話も広まらないだろうか。なんて思うのは、自意識過剰?

「おやまぁ、先輩だったんですか」
「し、信じられないです…」
「でも立花先輩もおっしゃるなら、本当だよな…」

喜八郎くんはペースを崩さないけれど、後の二人はびっくりしているようだった。二人に向かって鳴くと、兵太夫くんが気が付いてくれた。

「あ、名前ですか?」
「にゃん!」
「こちらが三年は組の浦風藤内先輩で、こっちは一年い組の黒門伝七です」
「よ、よろしくお願いします…って、猫に自己紹介するのも変な感じだな」

藤内くんが、照れたように言った。わたしも、仙蔵先輩に用意してもらった紙と墨でよろしくね、と書くと、また藤内くんと伝七くんが驚いてくれた。喜八郎くん、強者だ。



「さて、今日の作法委員の活動だが」

落ち着いたところで仙蔵先輩が口を開いた。注目が集まる。

「茶の作法の復習だ。今日は町に新しくできた茶店の団子を買ってきた」
「…にゃん?」
「作法委員は大体いつも、茶の作法をやるんですよ」

ぼそっと、わたしを撫でていた喜八郎くんが言った。なるほど、委員会活動とは名ばかりで、お茶を飲む時間だということか。さっき学園に入って来たときに、とても慌ただしかったから、もっと大変なものなのかと思っていた。と、その時外から文次郎先輩の声が聞こえて、仙蔵先輩が眉間に皺を寄せた。

「会計委員はいつも通り、うるさいな」
「会計委員はいつも、10キロのそろばんを持ってマラソンしてから、徹夜で帳簿計算をするんですよ」

また喜八郎くんが教えてくれた。徹夜するくらいならマラソンをなしにすればいいのに。何か意味があるのかと聞けば、潮江先輩の趣味ですよ、と伝七くんから答えが返ってきた。

「僕の友達も会計委員なんですが、潮江先輩は鍛錬マニアだっていつも言ってます」
「団蔵もだよ!僕らは作法で良かった!」

伝七くんが苦笑いで言って、兵太夫くんがけらけらと笑って言う。文次郎先輩、仙蔵先輩の同室で苦労しているのはわかるけど、先輩自身も色々苦労をかけているようだ。


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