わたしは結局眠れなかった。隣の仙蔵先輩がすうすう寝息をたてはじめたので、ホッとしたのも束の間。外からバタバタとうるさい足音が聞こえた。六年生はみんな足音を消して歩くのが癖なのかと思ったんだけど、そうでもないのかも。文次郎先輩がもう帰ってきたのかな。仙蔵先輩はまだ起こさない方がいいと思うんだけど、と考えていたら、足音が部屋の前で止まり、いきなり障子が倒れてきた。

「うわあぁぁあ!」
「にゃあっ?!」

聞き覚えのある叫び声と一緒に、障子が迫ってくる。わたしは部屋のすみに飛び退いた。仙蔵先輩も声に反応して飛び起きて、声の主の首に苦無をつきつけていた。

「せっ、仙蔵落ち着いて!僕だよ!」
「…なんだ伊作か」

寝ぼけていたらしい仙蔵先輩は、数度ぱちぱちと瞬きをしてから、伊作先輩を解放した。

「朝から人の部屋の障子を壊して、何の用だ?」
「障子を壊したのはわざとじゃなくて、何もない所で転んだからで…」
「用はないのか?」
「あっ、そうだ、猫!猫を探しに来たんだよ!」

怖いオーラを放ち始めた仙蔵先輩を、慌てて宥める伊作先輩。その目がきょろきょろっと部屋の中を探して、わたしのところで止まる。

「なまえ!」
「なんだ、あの猫は伊作のか」
「いや、僕のではないんだ。預かってる子なのに、朝いなくなってたから、慌てて探しに来たんだよ」

伊作先輩がわたしに駆け寄ろうとして、文次郎先輩の布団につまずいた。その間に、わたしは仙蔵先輩に抱き上げられる。

「誰から預かってるんだ?」
「小平太と長次が雷蔵くんから預かったのを、更に預かってるんだ」
「なんだ、じゃあ小平太達が面倒を見るのを放棄したのか?」
「そんなんじゃないぞ!」

いつの間にか、部屋の前に小平太先輩と長次先輩、あと留三郎先輩が立っていた。

「私は面倒見たいって言ったんだ!でも長次が…」
「小平太の愛がでかすぎて、なまえには窮屈なんだと」

小平太先輩の言葉を留三郎先輩が引き継いだ。仙蔵先輩はくすくすと笑って、想像できるな、と言った。やっぱり、小平太先輩はいつでもなんでも全力なのだ。

「でも留三郎達の部屋から逃げたってことは、私達の部屋の方がいいっていうことだよな?」
「何の話だ?」

仙蔵先輩がわたしを撫でながら、興味を示したように聞く。小平太先輩が、今回の勝負(?)の内容を仙蔵先輩に説明した。

「なあ、いいだろう、長次」
「待て小平太。私も参加する」
「へ?仙蔵も?」
「私もなまえが気に入った。なかなか賢い猫だ」
「なまえは猫じゃなくて人だぞ!」
「は?」

仙蔵先輩がわたしを見た。いい加減、この説明も面倒になってきたなぁと思っていたら、かわりに小平太先輩が説明をしてくれた。仙蔵先輩は目を丸くして聞いていた。小平太先輩が話し終えて、改めてわたしに注目が集まる。

「…なるほど、小平太の言うことはわかった。だが、まだ信じられないな」
「でも本当に、行動が人間みたいなんだぞ!」
「なかなか興味深い。やはり私も参加しよう。いいだろう?長次」

長次先輩が頷く。仙蔵先輩は満足そうに微笑むと、立ち上がって先輩達を部屋から追い出し、わたしも部屋の外に降ろされた。

「着替える」
「じゃあ先に食堂行ってるぞ」
「私の席も頼んだ」
「おー」

ぱたんと障子が閉まった。待とうかどうしようか迷っていたら、留三郎先輩が、なまえも行くぞ、と声をかけてくれたので、先に行くことにした。あ、そういえば、文次郎先輩は朝ごはん食べないのかなぁ。


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