翌日、わたしは大きな声に起こされた。仙蔵先輩の声じゃないから、文次郎先輩だ。

「ギンギーン!」

わたしが体を起こすと文次郎先輩はすでに着替えていて、体操をしていた。ぽかんとしてそれを見守っていると、隣の仙蔵先輩がゆっくりとかけ布団をずらし、起き上がった。怖いオーラを感じて振り返れずにいると、仙蔵先輩が口を開いた。

「文次郎…夜明け前から騒ぐなといつも言っているだろうが」

確かに、外を見ると、まだぼんやり暗かった。そして寝起きのせいか、昨日より掠れた仙蔵先輩の声は、迫力が増している。

「お前だって昨日、夜中に俺を起こしたじゃねぇか」

果敢にも言い返した文次郎先輩に向かって、超高速で枕が飛んだ。文次郎先輩はギリギリでそれを避け、壁に当たった枕は破れて中身が飛び散った。そのスピードを物語っている。さすがに文次郎先輩も危機感を感じたらしく、悪かった、と仙蔵先輩を宥めた。

「今日の飯は文次郎の奢りだな」

仙蔵先輩は文次郎先輩の返事も聞かず、再び布団をかぶった。文次郎先輩は大きなため息をついて、静かに部屋を出ていく。目が覚めてしまったので、わたしもその後を追って部屋を出ると、気付いた先輩が振り返った。

「あいつは低血圧で寝起きが最悪なんだ」

どうやら仙蔵先輩の話らしい。わたしが頷くと、文次郎先輩はどかっとわたしの隣に腰を降ろした。

「一年からあいつと同室だが、相変わらず我が侭で強引な奴だ」

愚痴を言っているとさらに親父っぽさが増す、だなんてとても言えない。でも今の文次郎先輩は、仕事で疲れたサラリーマンみたいだった。

「だが成績は優秀で、その上顔も整っていやがる。全く嫌味な野郎だ」

はあ、とまたため息をつく先輩。なんかすごく可哀想に見えてきた。応援したくなる。がんばれ文次郎先輩!わたしは先輩の膝に手を置いた。

「お前は俺の苦労がわかるか」
「にゃおん」

文次郎先輩がちょっと笑った。隈とボサボサの髪のせいで疲れた笑顔にしか見えなかったけど、多分今のは、ちょっとリラックスした笑顔だ。先輩は力任せにわたしの頭を撫でると、いきなり立ち上がった。

「よし!鍛!錬!だー!」

近くで聞いた文次郎先輩の大声に、思わず耳がキーンとした。部屋の障子がスパーンと開いて、怒りマックスって感じの仙蔵先輩が顔だけ出す。

「自分では黙れないようなら、永遠に黙らせてやろうか、文次郎…」

文次郎先輩は慌てて走り出した。イライラしたままの仙蔵先輩は、ふと足元のわたしに気が付き、じっと見られる。怖い怖すぎる。昨日の優しい感じの仙蔵先輩カムバック!と思っていたら、仙蔵先輩は少しだけ表情を柔らかくした。

「早く部屋に入れ。寝直すぞ」

わたしはもうあまり眠くなかったけど、こくこくと頷くと、仙蔵先輩の機嫌を損ねないように、静かに布団の上に転がった。ああ、ハチと兵助の部屋が恋しい。


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