今は多分、0時過ぎくらいだろうか。眠いけれど、ホグワーツではよく、このくらいの時間まで、悪戯の計画を練ったり、出歩いたりしていた。透明マントと忍びの地図が懐かしい。そういえばこっちに来てからは悪戯をしてないなぁなんて思いながら、曲がり角を曲がると、突然人が現れた。ように、感じた。忍者の性質なのか、みんな足音や気配を消して歩いてくるので、特に夜なんかは、全く気付くことができない。わたしがちょっとビクッとして立ち止まると、向こうもわたしに気が付いて、しゃがみこんだ。

「なんだ、猫か」

その人はびっくりするくらい色白で、しかもかなりの美人で、暗闇の中で光っているようだった。別に大袈裟に言ってる訳じゃないよ。女の人のようにも見えるけど、ここにいるってことは男の人のはずだ。その人はわたしのリボンに気が付いて、そっとそれに触れた。

「…誰かの飼い猫か?」
「にゃあん」
「ふふ、なかなか綺麗な毛並をしているな」

美人さんはわたしの頭を撫でた。彼の指はひんやり冷たかった。

「こんな時間では、飼い主も寝ているだろう。今夜は私の部屋に入れてやろう」

わたしがびっくりして美人さんを見上げる。美人さんはわたしを抱き上げて、歩き出した。

「飼い主は明日探してやろう」
「にゃあ」
「なんだ、礼を言っているのか?」

綺麗に微笑んだ美人さん。でもわたしは首を振った。わたしは名前を聞きたかったのだ。美人さんはようやく、わたしの猫らしくない行動を不思議に思ったらしく、眉間にしわを寄せる。

「言葉がわかってるのか?」

こくこくと頷く。美人さんが、ほう、と目を丸くした。と、その時、美人さんが灯りのついた部屋を見つけ、立ち止まった。それは伊作先輩と留三郎先輩の部屋で、ギクリとする。もう夜にあの怖い部屋にいるのは嫌だった。しかし美人さんは、ニヤリと笑うと、二人の部屋に近付いた。わたしは思わず、美人さんの腕の中から飛び降りる。

「伊作、留三郎、夜中に何をやっているんだ?」
「ああ、仙蔵…」
「見たらわかんだろ、大惨事だ」

美人さんは、仙蔵という名前らしい。仙蔵先輩はニヤニヤしながら、明日も実習だぞ、とか、早く寝られるといいなぁ?とか嫌味を言って、二人の部屋を離れた。部屋の灯りが見えなくなったところで、仙蔵先輩に駆け寄る。

「ああ、どこにいたんだ?」
「にゃーお」
「まあいい。部屋に戻るぞ」

仙蔵先輩は再びわたしを抱き上げて、歩き始めた。仙蔵先輩の部屋は角を曲がったところにあった。

「同室の奴は少しいびきがうるさいからな、うるさかったら鼻を引っ掻いてやれ。うるさくなくても引っ掻いていいぞ」

仙蔵先輩はニヤリと笑った。あまりに綺麗なので、逆にゾワッとするものがある。先輩はわたしを降ろして、障子を開けた。寝ている同室の人を見てわたしは一瞬、本当に仙蔵先輩と同じ年なのかと疑ってしまった。なんだか苦しそうな顔で寝ているその人は、簡単に言うと、老け顔、だった。仙蔵先輩がわたしの分の布団を押し入れから出すためにゴソゴソしていると、老け顔の先輩が突然ムクッと起きて、横にいたわたしはびっくりした。

「なんだ文次郎起きたのか」
「起きたのかってお前…厠に行くだけならもう少し静かにできんのか」
「猫を拾った」
「はぁ?」

老け顔の先輩、文次郎先輩は眉間に皺を寄せた。

「そういうのは同室の俺に了解を取ってから…」
「文次郎に拒否権があると思っているのか?文次郎ごときに?」
ようやく布団を敷き終えた仙蔵先輩が、ニヤリと上目使いで文次郎先輩を見た。文次郎先輩は何も言えず、明日になったら元の場所に返してこい、と言って、再び寝てしまった。

「さぁお前も、文次郎がいびきをかき始める前に寝た方がいいぞ」

仙蔵先輩は高く結っていた髪をほどき、布団に入った。わたしも、仙蔵先輩に頭を下げてから、布団の上で身体を丸めた。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -