伊作先輩と留三郎先輩の部屋は、散らかってるとか以前に、なんだか異質な空気があった。薄暗いせいもあるかもしれないけど、部屋の端に積まれているアヒルの首の模型?のようなものと、異様に存在感のある骨格標本が、すごく不気味だった。おまけに、ぷうんと薬草のにおいまで漂ってくるものだから、わたしは思わず、ノクターン横丁の闇魔術のお店を思い出してしまった。

「すげぇ薬草くせぇ…?」
「あ、朝に薬草をぶちまけて、そのままなんだった!」

伊作先輩はばたばたと部屋に入っていくと、ついたてのようなもので仕切られたスペースに近付いた。そのスペースには刷りこぎや薬草を入れる小さい箪笥などが並んでいて、下にはたくさんの薬草が散らばっている。魔法薬学で見たことのある薬草も、いくつかあった。

「なまえ、近付くと危ねぇから、こっち来とけ」

留三郎先輩がわたしを手招きした。どうやらこの部屋は、真ん中で二人のスペースが分かれているみたいだ。薬草と骨格標本が伊作先輩スペース、アヒルの首が留三郎先輩スペース。アヒルは近くで見ると、木製で、所々塗装が剥げていた。

「それは、用具委員で修理するアヒルさんボートの船首部分だ。剥げてきたから、塗り直すんだ」

アヒルを見ていたわたしに、留三郎先輩が説明してくれた。なぜ、アヒルさんボートなのか。忍者の学校の癖に、変に可愛い。でも塗装が剥げ、いくつも積み上げられたアヒルさんの首達に見つめられるのは、結構な恐怖体験だ。くちばしが邪魔になるのはわかるけど、全部こっちを向けないでほしい。

「可愛いだろ?」

留三郎先輩が、一番てっぺんに積んであるアヒルさんを撫でて、笑った。わたしはぎこちなく頷いたけれど、留三郎先輩の感性とは合わないと感じた。




そして、夜。伊作先輩と留三郎先輩の部屋の押し入れはぱんぱんだったので、わたしは二人の布団の間に丸まって寝ることにした。

「おやすみ、灯り消すよ」

伊作先輩がそう言って、蝋燭の火を吹き消した。途端に部屋は暗くなり、光は月明かりだけになる。月明かりでぼんやり浮かび上がる骨格標本のコーちゃんとアヒルさんの生首の怖さと言ったらない。ちょっとしたホラー映画のような感じだ。安物のホラー映画が意外と怖かったりするけれど、そういう感覚に似ている。わたしはなるべくそれらを見ないようにしたけど、目を閉じても、どうも視線を感じる。こんな中で落ち着いて寝れる二人にびっくりした。と、突然外で強い風が吹き、障子がガタガタっと音を立てた。しかも、障子がしっかり閉まりきっていなかったようで、ひゅうっと風が吹き込んでくる。おまけにその風のせいで、アヒルさんの山がぐらぐらして、てっぺんのアヒルさんが転がり落ちてきた!

「にゃんっ!」
「なんだ?!」

アヒルさんは留三郎先輩めがけて転がっていた。留三郎先輩はその殺気的ななにかを感じてか、飛び起きた。てっぺんのアヒルさんは避けたものの、連鎖的にその下のアヒルさん達も転がり落ちてきて、先輩は結局アヒルさんに埋もれてしまった。わたしは部屋の外まで先に避難していたので、アヒルさんから逃れることができた。留三郎先輩が起きた気配を感じたのか、アヒルさんの崩れる音を聞いたのか、伊作先輩も起き上がった。そして、この惨状を見て、目を丸くする。

「と、留さん何してるの?」
「俺が聞きてぇ…」

留三郎先輩は情けなさそうな顔をした。伊作先輩はなんとなく状況を理解したようで、苦笑いしながらアヒルさんをどけはじめた。しかしそこは不運委員長の伊作先輩、脇にどけたアヒルさんに見事に足をとられ、再びアヒルさんをぶちまけた。今度は部屋中に散らばった為、コーちゃんが倒れたり薬箪笥が倒れたり、酷い二次災害を生んだ。

「伊作…」
「す、すまない…」

もうどうしようもなくなった二人の部屋を、わたしはこっそり抜け出した。先輩達には申し訳ないけど、あそこにいてわたしに手伝えることはないし、ゆっくり寝ることもできない。とは言っても、小平太先輩達の部屋に戻るのも気が引けたので、わたしは廊下をぶらついて、寝れる場所を探すことにした。


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