出かけたうどん屋さんで、伊作先輩はうどんをひっくり返して、火傷した。お店の人からお盆を受け取ろうとして、手を滑らせてしまったのだ。留三郎先輩は慣れた感じでお店の人に謝り、片付けを手伝った。二人は一年の頃から同室だったらしい。そのせいか、留三郎先輩と伊作先輩の掛け合いは絶妙だ。

「熱かったー、留さん今日もごめん…」
「おう、取り替えてくれて良かったな」
「うん、こんなの珍しいよね」

伊作先輩は、今度はこぼすまいと、かなり慎重に食べていた。わたしは一杯も食べきれないので、留三郎先輩がちょっとわけてくれた分を食べた。猫舌だから、熱いうちに食べられないのが残念だ。

「もしかして、なまえがラッキー体質なのかもな?」
「にゃん?」
「あ、そうかも」

取り替えてもらえただけでラッキー体質だなんて、ちょっと大袈裟じゃないだろうか。と思っていたら、伊作先輩は眉を下げて、苦笑いした。

「いつもなら、こぼした時に丼を割っちゃって、弁償代も払わなきゃいけなるもんね」
「今日は丼代浮いたな」

どうやら伊作先輩はわたしの想像していたより、ずっと不運だったみたいだ。どうりで、うどん代にしてはたくさんお金を持ってると思った。

「じゃあなまえといたら、僕の不運も少しはマシになるかな…」
「それはいいけど、伊作、うどんのびるぞ」
「あっ」

わたしと留三郎先輩は、食べ終わっていた。伊作先輩は喋っていて忘れていたらしいうどんに慌てて手をつけ、かまぼこが飛んでいった。




なんとか無事に伊作先輩も食べ終えて、わたし達は町を通って学園に向かっていた。と、伊作先輩が一つのお店の前で足を止めた。

「どうした?伊作」
「留さん、これ見て」

どうやら伊作先輩が足を止めたのは、髪を結うリボンなんかを扱っているお店らしかった。学園の生徒は男の子でも髪が長い人が多いし、男の子がこういうお店を覗くのも普通のことみたいだ。しかし、伊作先輩が手に取ったのが朱色の可愛いリボンだったので、わたしは少しぎょっとしてしまった。伊作先輩は気にせず、それを購入した。まあ、昨日あった女装の授業とかで使うんだろう、と自分の中で納得していたら、ひょいっと留三郎先輩に持ち上げられた。正面にいた伊作先輩が、わたしの首にリボンをかけてくれる。

「うん、よく似合うよ!」
「にゃあ?」
「丼代浮いたから、その分のお礼だよ」

伊作先輩はにっこり笑って言う。わたしは、お礼のかわりににゃあん、と鳴いた。それからわたし達は、仲良く学園に戻った。長屋に着くまでに伊作先輩が三回落とし穴に落ちたけど、それにも慣れてきた。伊作先輩だけボロボロになりながらも、「食満・善法寺」という札のかかった部屋に到着した。

「今ちょっと散らかってるんだけど…」
「小平太達の部屋は長次が掃除してるもんな、あんな綺麗じゃないぜ」

そう前置きしてから、二人は障子を開けた。そうして、部屋の中を見たわたしは、思わず一歩引いてしまった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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