「いさっくーん、とめさぶろーう!」
「あ、小平太に長次、おはよう」
「大声で呼ぶなよ」

食堂に着くと、小平太先輩が大声で叫んだので、伊作先輩も留三郎先輩もすぐに見つかった。注目が集まってしまって少し恥ずかしかったけど、小平太先輩は何も気にせず、伊作先輩達のテーブルに近付いた。伊作先輩達の正面に座っていた下級生が慌てて席を移り、小平太先輩はお礼を言ってそこに座った。長次先輩もその横に座る。わたしは小平太先輩と長次先輩の間に降ろされた。

「なまえも、おはよう」
「にゃあ」

伊作先輩に返事を返すと、先輩は嬉しそうに笑った。

「食事をもらってくるからな」

小平太先輩がわたしの頭をくしゃっとしてから、席を立った。長次先輩も、一緒に席を立つ。わたしは前足を机にかけて、正面に座っている二人を見た。伊作先輩のご飯が、砂まみれで少し離して置いてあるのは、また落としてしまったとかだろうか。落とさないよう慎重に食べている伊作先輩は、やっぱり可哀想だった。そんな風にしている間に、小平太先輩達が戻ってきた。すごい、悩み癖のある雷蔵がいないだけで、こんなに早く戻ってこれるのね。わたしが先輩の場所を空けるために少し移動すると、そのスペースに長次先輩がわたしのご飯を置いた。わたし用に食べやすく切られた料理は、いつもはハチが貰ってきてくれるものだ。きっと実習に行く前に、ハチが頼んでおいてくれたんだろう。

「ところで、大声で呼ぶなんて、何か用があったの?」
「それなんだが…」

小平太先輩は、少しぶすっとしながら事情を説明した。伊作先輩と留三郎先輩は、すぐに了承してくれた。渋ってたのはやっぱり小平太先輩だ。ご飯を食べ終わって部屋に戻る時、名残惜しそうに頭を撫でられたので、少し申し訳ない気分になった。なんていうか、小平太先輩は不器用だと思う。




「今日は応急手当の授業だから、なまえちゃんも見学するかい?」

伊作先輩にそう誘われて、わたしは頷いた。昨日の授業は少し怖かったけど、六年生の授業には、一年は組で受ける授業と違う、すごさがある。二人に着いて行くと、どうやら授業は教室でやるみたいだ。六年生の教室を見たのは初めてだった。教室に入ると、ズラリとマネキンのようなものが並べられていて、わたしはギョッとした。マネキン達はみんな鎧を身に付け、傷を負っているようだ。妙なリアルさにわたしが引いていると、ぽんぽんと背中を撫でられた。くすぐったい、と思い見上げると、留三郎先輩だった。

「ちょっと刺激が強ぇか?でも作りモンだからな」

ニッと笑う留三郎先輩は、お兄ちゃんがいたらこんな感じだろうなぁ、って感じがした。頼りになる感じ。




授業が始まると、生徒達は先生の指示に従って、マネキンに応急手当をしていく。矢での怪我、骨折、化膿した場合、毒が入った場合など、あらゆる状況を想定して行われた。中でも伊作先輩は手当が正確で早くて、手慣れている。さすが保健委員長だ。しかし授業は、伊作先輩のぶちまけた包帯や薬を拾いながら終了した。結局は不運なのだ。他の生徒は食堂に向かってしまって、唯一残った留三郎先輩に手伝ってもらいながら、伊作先輩は包帯をまとめていった。しょっちゅうぶちまける分、片付けるのもお手のものだ。長くなっちゃってごめんね、と苦笑いする伊作先輩にわたしは、大丈夫、と鳴いた。しかし食堂に行って、もう食材が残ってないと言われた時は、ちょっと悲しかった。授業自体が少し長引いた上に、伊作先輩の不運な事故が重なってしまったのだから、仕方ない。

「しかし腹減ったな」
「す、すまない…」
「にゃーお」

申し訳なさそうな伊作先輩の足に、元気を出してと自分の前足を乗せた。ありがとう、と伊作先輩が笑う。留三郎先輩も伊作先輩の肩をぽんと叩くと、ちょっと考えた後、言った。

「なまえも腹減っただろうし、たまには外に食いに行くか?」

つまり、食べ損なったお昼ご飯を町で食べようかという提案だった。伊作先輩が何か言う前に、伊作先輩のお腹が、ぐうぅと返事をした。わたしもお腹が減っていたので、留三郎先輩に頷いてみせると、留三郎先輩はよし決定だな、と笑った。


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