裏裏山から帰って来たわたし達を、中在家先輩は門で迎えてくれた。中在家先輩はぐったりとしたわたしを、元気いっぱいの小平太先輩から受け取ると、部屋とは違う方向に歩き出す。どこに行くのか尋ねる元気もなく、わたしはぼーっとしながら、流れる風景を眺めていた。やがて中在家先輩が立ち止まったのは、お風呂の前だった。いつもは、生徒の入浴時間が過ぎた後に、シナ先生と一緒に入らせてもらっている。だけど、先輩がわたしを連れて来たのは男湯で、当然わたしがいつも入るのは女湯だ。どうするのかと先輩を見上げると、先輩は当たり前のように男湯に入っていく。わたしが少し慌てていると、ぼそぼそと声が聞こえた。わたし達が帰って来たら、いつもよりも早い時間だけど入れるように、小松田さんに頼んでおいてくれたらしい。中在家先輩は脱衣所でわたしを降ろし、行っておいで、というジェスチャーをした。わたしはありがたく、その好意を受け取ることにした。



お風呂から上がったわたしは、夕飯だぞ、という小平太先輩の声を聞きながら、寝てしまった。こんなことは今までになかったので、学園に来てから、一番疲れる一日だったんだろう。夜中になっても一度も起きることなく、わたしは眠っていた。目が覚めたのは、ゆさゆさと揺らされて、小平太先輩の声が聞こえた時だった。

「なまえ、なまえ!朝だぞ」

わたしがうっすら目を開けると、小平太先輩の顔が目の前にあった。びくっとして、完全に目が覚める。小平太先輩はニッと笑って、屈めていた上半身を起こした。と、そこでようやくわたしは、場所が押し入れの中ではないことに気が付いた。布団だ。

「なまえのおかげでよく眠れたよ」

にこにこしている小平太先輩に首をかしげる。わたしのおかげ?

「昨日、なまえは私の布団で寝てしまっただろ?なまえと一緒に寝ると、暖かいな!」

小平太先輩の言葉に、一瞬固まった。うわ、わたし、小平太先輩と同じ布団で寝ちゃったの!今は猫だとは言え、心は14歳の女の子だ。その事実だけで十分恥ずかしい。わたしが逃げるように中在家先輩の側に行くと、中在家先輩はじっとわたしを見た。なんだろう、と少し怖じ気づきながらも、中在家先輩を見つめ返した。しばらくして、中在家先輩はぼそぼそっと何か言った。聞き取れなかったのでもう一度聞こうとしたとき、小平太先輩が、えー!と大きな声を出した。

「やだ!」

どうやら小平太先輩は聞こえたらしい、さすが。何が嫌なのかわからないわたしが、困ったような声で鳴いていると、いきなり小平太先輩に抱き上げられた。

「なんでいさっくん達に預けるなんていうんだよ!」

小平太先輩の言葉にびっくりした。中在家先輩はまたぼそぼそっと何か言う。

「え、なまえがしんどそう?私のせい?!」

小平太先輩はわたしを見た。慰めようと、先輩の肩に手を乗せると、いきなり押し潰される。いや、抱きしめようとしてくれた、のかな?ただ、力が強すぎて、わたしはぐえっとなった。小平太先輩はしばらく離してくれず、そろそろ窒息しそう、と思ったとき、ようやく解放してくれた。

「わかった、じゃあ一日だけ預けてみて、どっちがいいのかなまえに決めてもらう」

ええ!そんなのは困る!慌てて中在家先輩を見上げれば、先輩は少し考えてから、頷いた。中在家先輩まで納得しちゃった!中在家先輩が味方でない状態で、小平太先輩に話を聞いてもらうのは、ほぼ不可能だ。つまり、もう諦めるしかない。とりあえず、お腹が空いてきたわたし達は(そういえば昨日は、夕食を食べてない!)、食堂で伊作先輩達を探すことにした。


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