中在家先輩達六年生は、今日の授業は午前中のみらしい。雷蔵達が実習に出かけたのが、朝食のすぐ後だったので、これから授業だ。

「なまえ、今日はな、女装の授業なんだ」

ジョソウって聞いたことのない言葉だ。どういう意味だろうと考えていたら、小平太先輩が突然、服を脱ぎだした。わたしが慌てて部屋を出ようとすると、中在家先輩に抱き上げられ、押し入れに降ろされた。

「すぐ済ませる…」

そうボソッと呟くと、押し入れの戸が閉じた。は、初めて中在家先輩の声が聞けた!


すぐに、押し入れの戸は開いた。でもそこにいたのは、なぜか、女の人の格好をした、小平太先輩。ぎょっとして、わたしはちょっと身を引いた。

「どうだ?私の女装!」

ジョソウって、女の人の格好をすることだったのね。お化粧が意外と綺麗なことには驚いたけど、がっちりした体格のせいで、ずいぶんと、いかつい感じの女の人になっていた。小平太先輩の後ろにちらっと見えた中在家先輩は、女装をしていなかった。

「にゃあ?」
「ん?ああ、長次は私の付き人なんだ」

小平太先輩の話によれば、今日の授業は、とある富豪の娘さんの身代わり、らしい。その娘さんがこっそり山を抜ける間、娘さんのふりをして町を歩いていくそうだ。富豪の一人娘というのは、盗賊なんかに狙われる危険があるらしい。

「でも今日の依頼主はあまり有名じゃないから、楽な授業だな」

そう言って笑うと、さあ行くか、と小平太先輩がわたしを抱き上げた。なんでわたしまで、と思って先輩を見上げると、ずっと学園の中ではつまらないだろう、と笑いかけられた。困って中在家先輩を見たら、彼も止めようとはしていない。まあ、中在家先輩が大丈夫だって思ったのなら、大丈夫、かしら?




「長次っ長次っ帰りは団子を食べて行こう」

女装した小平太先輩は、町を歩きながら、小声で中在家先輩に言った。視線の先、町の外れには、お団子屋さんがある。お団子屋さんより向こうはしばらく草原が続き、その先は林のようなので、そこまで行ったら授業は終わりなんだろう。特に何も起こらなかったけど、先生がどこかから監視してたりするのかしら?そうでなかったら、ただのお散歩だ。わたしにとっては、楽しいけれど。町は資料の中でしか見たことのないような、昔の日本の雰囲気に溢れている。カラフルな着物に活気のある話し声、そんなものにわたしが浮かれながら歩いてると、やがて町を抜けた。お団子屋さんでは、旅をしているのか、大きな荷物を持った男の人が二人、楽しそうにお団子を食べている。

「あそこの林の向こうで、依頼主と合流したら終わりだからな」

小平太先輩が、小声でわたしに話しかけた。わたしはにゃあと鳴いて返事をしようとした。けれど、突然小平太先輩に抱き上げられ、視界が暗くなり、驚いて口を閉じた。なんで突然、と思い、顔を上げると、小さい刃物を構えている中在家先輩が見えた。先輩の前には、さっきお団子屋さんにいた男の人が、これまた刃物を構えて立っている。小平太先輩はわたしを抱き上げて、距離をとったらしい。わたしの視線に気付いたのか、中在家先輩を見つめていた小平太先輩がちら、とわたしを見た。

「大丈夫、長次は強いよ」

女装がバレていないようなら、そのまま小平太先輩は娘さんのふりを続行して、中在家先輩があの二人と戦う、らしい。その雰囲気に思わずゾクリとしたわたしの視界を、小平太先輩の手が遮った。

「なまえは見なくていいぞ、面白くないから」

言っている意味がわかって、わたしは大人しく、小平太先輩の手が外される時を待った。忍者っていうのは、やっぱりそういうものなんだろうか。長い実習に出かけて行ったみんなのことが、心配になった。


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