「それじゃあ先輩、一週間よろしくお願いします」

そう言うと雷蔵は、いつもわたしが使っているノートと墨入れを、中在家先輩に渡した。雷蔵達五年生は、今日から一週間、校外実習に行くらしい。わたしはハチと兵助の部屋で待ってると言ったんだけど、心配性なみんなは、わたしを六年生の先輩に預けることにしてくれた。というわけで、委員会で先輩と繋がりのある雷蔵が、中在家先輩に頼みに来たのだ。雷蔵のお願いに、中在家先輩はすんなりと頷いてくれた。

「なまえーいい子にしてろよ!」
「猫扱いすると引っ掛かれるぞ、はっちゃん」

ハチに撫でられていたら、横から兵助が言った。それを聞いた中在家先輩が、雷蔵に何かボソボソっと聞く。

「あ、そうなんです、実はなまえは元々…」

雷蔵が必死に事情を説明してくれている間に、わたしはハチと兵助と三郎に囲まれて、お別れを言われる。7日間なのに少し大袈裟じゃないかと思ったけど、忍者の実習っていうのは、そんなに簡単なものじゃないのかもしれない。とにかく、みんなが無事に帰ってきてくれたらいいなと思った。

「みんな、そろそろ行かないと」

雷蔵の言葉に、ハチ達は立ち上がった。どうやら中在家先輩に説明は終わったらしい。

「なまえ、行ってくるね」

ふわっと笑う雷蔵の笑顔は、見ていて安心する。これがあと一週間は見れないのか、と思うと、一週間って結構長いな、と感じた。わたしは、返事の代わりにしっぽを振る。雷蔵も手を振ると、門の方に走って行ってしまった。

みんなが見えなくなってから、わたしは中在家先輩を見上げた。中在家先輩はかなり背が高い。わたしの視線に気付いたのか、中在家先輩がわたしの方を見た。それから、ちょいちょいと右を指さしてから、右に向かって歩き出す。その後をついていけば、着いたのは中在家、七松という札のかかった部屋だった。中在家先輩の同室は、七松って人なのね。

中在家先輩は、一度わたしに手のひらを向けてから、部屋に入った。多分、少し待っていろ、くらいの意味だろう。わたしが大人しく待っていると、なにか中で話している声が聞こえた、かと思えば、すぐに障子がスパーンと開いた。ハチの朝のスパーンで慣れているわたしは、結構落ち着いて走って部屋から出てきた人を見た。きょろきょろして、足元にわたしを見つけたその人、多分七松先輩は、ニカッと笑った。

「お前がなまえか!私は七松小平太だ、よろしくな!」

笑顔が可愛らしいその人は、ハチにちょっと似てるかな、と思った。返事の代わりに一声、にゃんと鳴くと、小平太先輩はしゃがみ込んでわたしを見た。それからグリグリと頭を撫でられた。

「なまえはほんとに人間なのか?」

頷いてみせると、小平太先輩はおおっと声を上げる。

「字も書くんだってな?」

またわたしは頷いた。小平太先輩は、ちょっと書いてみせてくれないか、と、中在家先輩から受け取ったノートと墨入れを差し出した。わたしは白いページを開くと、爪に墨をつける。なんて書こうか、少し考えた後、わたしは紙に爪をつけた。

「ななまつ、こへいた、せんぱい」

小平太先輩は読み上げてから、がばっとわたしを抱き上げた。突然の行動にわたしがびっくりして固まっていると、また頭をグリグリされた。

「私の名前じゃないか!なまえ、お前、可愛いな!」

小平太先輩は嬉しそうににこにこしている。慣れない反応に、わたしはちょっと照れて、戸惑った。あと、苦しい。小平太先輩はかなりがっちりとわたしを絞めていた。逃れようと小平太先輩の腕の中でもがいていたわたしは、中在家先輩に救い出された。

「あっ長次取るなよー!」

小平太先輩が不満そうな顔をした。中在家先輩が、ボソボソっと何か言う。

「え、なまえが苦しそうだった、って…なまえ、苦しかった?」

小平太先輩の言葉に頷けば、ごめんなー!とまたグリグリされた。悪い人では、ないんだろうけどな。小平太先輩は、大きい子どもみたいな人だ。それに対して、中在家先輩はほんとに大人みたいだ。中在家先輩の側は、なんとなく落ち着く気がした。


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