午後の授業も終わり、わたしは五年の長屋に戻ってきた。しかし、みんなはいない。どうしようかなぁとウロウロしていると、小松田さんがやって来た。

「あ、こんにちは、なまえちゃん」
「にゃーお」
「雷蔵くん達を待ってるの?五年生は午後からちょっと遠くまで校外実習に行ってるみたいだから、もう少し遅くなると思うよ」

それは知らなかった。小松田さんに頭を下げると、わたしは長屋を後にした。一人で待っているのもつまらないので、誰か知ってる人がいないか、学園内を探しに行こう。




しばらく歩いていると、馬小屋の方から話し声が聞こえた。近付いてみると、は組の団蔵くんと虎若くんが、馬を連れたお兄さんと話していた。

「にゃーん」
「あ!なまえさん!」

声をかけると、先に団蔵くんが気が付いて、きらきらとした目で見られた。団蔵くんの言葉に、虎若くんも表情を明るくしてこっちを向いた。どうしたんだろう。

「なまえさん、ちょっと頼み事してもいいですか?」

団蔵くんが真剣な顔で言ったので、わたしも少し緊張して頷いた。

「清八が持ってきた手紙、山田先生宛なんですけど、山田先生まで渡しに行ってもらえませんか?」
「僕は生物委員で収集がかかっちゃったし、団蔵もこれから会計委員に行かないといけなくて」

ずいぶん切羽詰まった様子の二人に、わたしはもう一度頷いた。清八と呼ばれたお兄さんは、ちょっと不安気な顔をした。

「若旦那、猫と会話しても、通じているとは思えませんが」
「大丈夫だよ、清八!この猫は猫じゃなくて人間だから!」

ぽかんとしている清八さんの手から手紙を抜き取ると、団蔵くんはそれをわたしに差し出した。わたしは手紙をくわえて、清八さんに向かって頷いてみせた。清八さんは一瞬ギクリとしたような顔をしてから、へらっと笑った。

「それじゃあ、頼みました」

清八さんは一言二言、団蔵くんに声をかけてから、馬に乗って塀を飛び越えて行った。団蔵くんと清八さんは、どういう関係なんだろう。しかし、そんなことを聞く暇もなく、虎若くんは生物委員会に、団蔵くんは会計委員会に走って行ってしまったので、わたしも手紙を渡す為に山田先生の部屋を目指した。



しまった。いつも馬小屋なんて行かないので、方向がわからなくなって、迷ってしまった。急ぎの手紙だったみたいなのに。なんとか知っている道に出ようと、適当に走り回っていると、あれ?と救世主の声が聞こえた。

「なまえさん、急いでどうしたの?」

声の主は、隣の席の兵太夫くんだった。わたしは必死に、手紙の「山田伝蔵殿」という文字を示した。兵太夫くんはすぐに、ああ、と呟いた。

「山田先生に、手紙を届ける途中ですか」
「にゃん!」
「でも、迷ったんですね」

兵太夫くんがにっこり笑って言った言葉に、わたしはしょんぼりと頷いた。兵太夫くんは楽しそうに笑った後、こっちですよ、と先に立って歩きだした。ちょっと意地悪だけど、道は教えてくれるらしい。


しばらく兵太夫くんと話しながら歩いていたら、割りと早く山田先生の部屋まで辿り着いた。でも、途中で倉庫の中に入って、大きな箱をどけたところの穴を通った時に、秘密の抜け道なんだよと兵太夫くんが教えてくれたので、早く着けたのは兵太夫くんのお陰だ。山田先生に無事手紙を渡すと、わたしと兵太夫くんはブラブラと長屋に向かった。

「他にも、実はたくさん抜け道があるんだ。ほとんどは小松田さんが開けた穴で、用具委員が見過ごしてるやつなんだけど。今度、なまえさんにも教えてあげる」

兵太夫くんは、にこっと笑った。意地悪とか思ったけど、やっぱり可愛い。わたしがにゃおんとお礼を言った時、遠くから聞き慣れた声がわたしを呼んだ。

「あ、竹谷先輩の声だ」

兵太夫くんが、立ち止まって言った。わたしも一緒に立ち止まる。わたしを呼ぶ声と数人分の足音は、近くまで来ていた。

「それじゃあなまえさん、また明日!」
「にゃん!」

兵太夫くんはそう言ってわたしに手を振ると、ちょっと寂しそうに笑った。わたしは手が振れないので、代わりに尻尾を振った。それを見た兵太夫くんは、今度は嬉しそうに笑って、足音とは反対側に走って行った。兵太夫くんが見えなくなってすぐに、ハチ達が現れる。

「なまえ!部屋に戻ろうぜ!」
「実技の授業、どうだった?」
「にゃあ!」
「はは、楽しかったみたい」
「まあ、一年は組だもんなぁ」

明日の授業が楽しみなんて思ったのは、久しぶりだ。早くまたみんなに会いたいなぁと思いながら、わたし達は賑やかに五年の長屋へ帰っていった。


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