ちょっと恥ずかしかった昼食の時間も終わって、わたしは庄左ヱ門くんと伊助くんと一緒にグラウンドに向かった。午後の授業は実技らしい。

「今日は手裏剣の特訓を行う!」
「はーい!」

山田先生、という、は組の実技の先生の言葉に、みんなは元気よく返事をした。手裏剣、なんだか忍者っぽい。わたしがわくわくして、伊助くんが狙っている的の脇に立っていると、突然ひょいっと抱き上げられた。上を見ると、山田先生だった。

「なまえは、こっちにいなさい」

わたしを抱いているから両手が塞がっているにも関わらず、山田先生は軽々と木の枝に飛び乗った。わたしを横に降ろし、下を見る山田先生。わたしもつられるように下を見ると、みんなの投げた手裏剣は、的からは程遠い場所に飛んでいた。わたしがさっきまでいた場所も例外ではなく、思わずぶるぶるっと体を震わせた。

「はぁ、いつまで経っても上達せんなぁ…」

山田先生が、切なそうに呟くのが聞こえた。そこから山田先生は、いろんな家庭事情や、悩みなどを語ってくれた。は組の補習で家に帰れず、奥さんがカンカンらしい。なんていうか、可哀想だ。しかし、それでも山田先生がは組のみんなを大切に思ってるのはよくわかった。頑張れ、山田先生。

「山田せんせーい、手裏剣がもうないでーす!」
「よーし、全部拾い集めてこい!」

乱太郎くんの言葉に、山田先生が木の上から叫び返した。見れば的には一つも手裏剣が刺さっておらず、そこらじゅうに散らばっていた。は組のみんなはわらわらと手分けして、手裏剣を集め始める。手伝おうと思って、わたしも木から飛び降りた。こういうことができるのは、猫ならでは、だ。一番近くで、繁みに頭を突っ込んでいた喜三太くんと金吾くんを見付けたわたしは、二人に声をかけた。

「にゃーお」
「あ、なまえさん」
「手伝ってくれるの〜?」

喜三太くんの言葉に、頷く。体が小さい分、わたしの方が狭いところに入りやすい。

「ありがとう〜!」
「にゃん!」
「この繁みの中に、一枚落ちてるんですけど、手が届かないんです。なまえさん、お願いできますか?」

金吾くんが、さっき喜三太くんが頭を突っ込んでいた繁みを指さした。身を屈めて覗くと、確かに一枚落ちている。わたしは二人に頷いて見せた後、繁みを掻き分けて中に入った。細い枝がチクチクする。手裏剣をくわえて繁みを出ると、喜三太くんに撫で回された。

「わあーありがとうなまえさん!」

四つも年下の男の子に、年下扱いされているみたいだけど、もうすっかり慣れてきてしまっている。わたしは金吾くんの掌に手裏剣を置いた。

「ありがとうございます!」
「にゃん!」
「なまえさぁん!こっちもお願いしまぁす!」

金吾くんに返事してすぐ、しんべヱくんの声がした。きり丸くんと乱太郎くんが肩車しているので、どうやら肩車しても届かない、高いところに乗ってしまったみたいだ。手を振る喜三太くんと金吾くんの元を離れ、三人のところに向かった。

「用具倉庫の屋根に乗っちゃったんだけど、足掛けるとこがないんすよ!」
「僕ときりちゃんの上からなら、多分屋根まで届くと思うんです!」

そう言う二人に頷くと、しんべヱくんに持ち上げてもらって、乱太郎くんに抱き上げられる。ちょっとごめんね、と思いながら乱太郎くんの頭に乗ってみると、ジャンプしたら屋根まで届きそうだった。一度縮んで、屋根に飛び移る。

「やった!成功だ!」
「ちょっときりちゃん、急に動かないで!」
「あ、わりっ…うわぁ!」

下から大きな音がした。見れば、きり丸くんと乱太郎くんがバランスを崩して倒れていた。大丈夫か声をかけると、二人はへらっと笑った。

「大丈夫です〜」
「それより、手裏剣ありました?」

きり丸くんの言葉に、屋根の上を見回すと、近くに一枚、上の方に一枚、手裏剣があった。二枚とも重ねてくわえ、屋根から飛び降りると、三人の隣に山田先生が立っていた。山田先生が屈んで手を出したので、そこに手裏剣をおく。

「ご苦労だった、なまえ」
「にゃーお」
「乱太郎にきり丸にしんべヱは、忍者ならもう少し身軽にならねばならんな」
「はぁーい」

ちょっとしゅんとした三人組。授業はそれで終わりで、みんなばらばらと校舎に帰り始めた。わたしはしょんぼりしているしんべヱくんの袖をちょっと引っ張り、地面に文字を書く。

「しかた、ないよ…?」

わたしはこくんと頷いて、つぎがんばればだいじょうぶ、と続けた。三人は顔を見合わせてから、にこっと笑った。

「うん、わかった!なまえさん!」
「にゃあ!」
「それと、手伝ってくれてありがとうございました!」

乱太郎くんにぺこりと頭を下げられて、わたしはちょっと照れながら、頷いた。ほんとに、素直でいい子達だなぁ。


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