食堂に着くと、すでに兵助と三郎は座っていた。雷蔵はいつも通り、迷っていたけど、兵助と三郎は先に食べておいてなんて言わなくても、先に食べていた。わたしが乱太郎くん達にお礼を言って、兵助と三郎の元に行くと、三郎が先に気が付いた。

「お、なまえ。授業はどうだった?」
「にゃあん」
「楽しかったみたいだな」

わたしは三郎の隣に飛び乗った。わたしのご飯はもう持ってきてくれてあって、わたしは二人にお礼を言った。ハチのことは、言った方がいいだろうか。そのうちくるだろうし、すでに二人は食べ始めているし、多分親友同士の彼らはわかっているだろう。正直筆談は面倒なので、わたしは彼らの友情を信じて、言うのをやめた。

「先輩、僕らも一緒に食べていいですか?」

わたしが食事を始めようと思ったとき、そう言ってわたしの隣に座ったのは、庄左ヱ門くんと伊助くんだった。

「もちろん、一緒に食べよう庄左ヱ門!」
「伊助、狭いだろ。こっち側来いよ」
「ありがとうございます久々知先輩!」

伊助くんは正面にいる兵助の隣に移動した。庄左ヱ門くんと三郎も、伊助くんと兵助も、委員会が一緒の先輩後輩らしい。みんな少なからず、自分の委員会贔屓みたいなのがあるらしく、三郎なんかは庄左ヱ門くんの頭をぐりぐりと撫でていた。

「先輩達は、どこでなまえさんと会ったんですか?」

ぐりぐりされてちょっと照れ臭そうな庄左ヱ門くんが、お箸を持ちながら三郎に聞いた。伊助くんも興味深そうに三郎を見る。

「実はなまえはしんべヱくんの父上の…」
「それは嘘だってしんべヱが言ってました」
「しんべヱくんめ…」

三郎は、つまらなそうに口を尖らせた。苦笑いの兵助が引き継ぐ。

「なまえは、ハチが毒虫探しの最中に見付けて来たんだ」
「え、最初から猫だったんですか?」
「最初から猫だったよ」
「じゃあ先輩達も、なまえさんの人間の姿は見てないんですかぁ」

伊助くんが箸をくわえながら喋って、兵助に、行儀悪いぞと怒られた。

「でも、そういえば、あんまり考えたことなかったな。なまえがどんな女の子なのかとか」
「まあ、猫だもんな…」

確かに、普通の猫と比べればずっと人間らしく扱ってもらっているけど、やっぱりわたしは「猫」なのだ。全くジェームズは、何のためにあんな薬を作ったのか。魔法省で認められている動物もどきは本当に少ないし、かと言ってシリウスやピーターやわたしが元に戻れなくなったら、ジェームズやリーマスのことだって、イモづる式にばれるかもしれない。ジェームズは普段、仕掛人に不利になることはあんまりしないし、無駄な薬を作るのに一生懸命になることもない。でも、ジェームズに聞いたら「なんとなく」なんて答えるかもしれない。何より彼は、気分屋なのだ。

「なまえ!」
「にゃっ!」

考え事をしていたら、突然体が宙に浮く。びっくりして手足をバタバタさせていると、頭上からはははと笑う声が聞こえた。ハチだ。ハチはわたしの座っていたスペースに座ると、わたしを膝に乗せた。こういうハチの行動にも、だいぶ慣れてしまった自分がいる。庄左ヱ門くんと伊助くんは、ちょっとびっくりして見ていた。

「あ、飯持って来んの忘れた」

湯飲みの中の緑茶の葉をぐるぐると回していたハチが、突然そう言って、再びわたしを持ち上げた。また元の場所に降ろされるかと思ったら、ハチはわたしを、隣の庄左ヱ門くんの膝に乗せた。

「え、ええ?!」
「はは、飯取ってくる間任せたぞ、庄左ヱ門」
「ハチ、ついでに雷蔵呼んできて」
「おう!」
「え、ちょ、竹谷先輩!」

あたふたする庄左ヱ門くんと、すっかり慣れている三郎。ハチが行ってしまうと、今度は庄左ヱ門くんは三郎に助けを求めた。

「三郎先輩!どうすれば…」
「どうするって、そのまま抱っこしてたらいいんだよ」
「でででもなまえさんは人間で先輩で!」
「珍しいな、いつも冷静な庄ちゃんなのに」
「だって…!」

庄左ヱ門くんはちょっと赤くなっていた。正面では、伊助くんが笑って見ていた。わたしは、庄左ヱ門くんの方を向いて、その胸に前足をぽん、と乗せた。気にしないで、という意味のつもりだ。庄左ヱ門くんは少し照れながらわたしを見て、目が合うと、ふにゃんと笑った。

「…三郎先輩」
「ん?」
「なまえさん、可愛いですね」

庄左ヱ門くんが頬を染めながらも、にっこり笑って言った。今度は三郎の方が一瞬詰まって、恥ずかしそうに言葉を濁した。ぽかんと見ていた兵助と伊助くんが、顔を見合わせて言う。

「…庄ちゃんって、」
「ストレート、だな」

庄左ヱ門くんは、自分で言ったくせに、何のことかよくわかっていないようで、不思議そうな顔をしている。なんだか微妙な空気になってしまった。わたしは、早くハチと雷蔵が戻って来ないかなぁと考えながら、なるべく表情を変えないで大人しくしていた。


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