立ち直った土井先生は、わたしに「忍たまの友」という教科書と、いつも使っているノートと墨入れをくれた。多分兵助が渡しておいてくれたんだろう。

「なまえの席は…喜三太と兵太夫の間が空いてるな」

三人用の机に11人の生徒が座っているので、当然一つ席が空く。わたしは教科書をくわえて、教卓からひらりと飛び降りると、土井先生の指した机に向かった。と、左隣の男の子がにこにことわたしに手を振った。あ、ナメクジの子だ。

「この間の猫さんだよね、先輩だったんだね〜」
「喜三太知ってるの?」
「うん、この前ナメ太郎がいなくなったとき、遊んでてくれたんだよ〜」

にこにこしてるナメクジの男の子は、喜三太くんと言うらしい。ってことは、反対隣の子は兵太夫くんだ。

「なまえさんって、この前三郎先輩が俺たちに、口裏合わせてくれって頼みにきた人だよな」
「あー、しんべヱのお店のお得意先の娘さんってことにしといてって言ってたやつだね」

前の席のつり目の子と眼鏡の子が振り返って、最後に真ん丸な男の子が振り返った。わたしが、なまえは?と紙に書くと、三人はにっこり笑った。

「乱太郎です!」
「きり丸っす!」
「しんべヱでーす」
「喜三太だよ〜」
「兵太ゆ…」
「こらお前達ー!授業は始まってるぞ!」

土井先生の怒鳴り声に、わたし達は思わず小さくなって、前を向いた。でもその後すぐに前の三人は寝てしまって、また怒られていた。それから喜三太くんのナメクジが脱走したり、窓から宝禄火矢が飛び込んできたり(土井先生の分かりやすい解説付き)、授業はちっとも進まない。そうこうしている間に、午前の授業の終わりの鐘が鳴った。今日覚えたのは、宝禄火矢の仕組みと使い方くらいだ。土井先生はお腹を押さえながら、教室を出ていった。それを合図に、みんなが一斉に、わたしのところに群がってきた。さっき名前を聞けなかった子にも名前を教えてもらって、わたし達はすぐに仲良くなった。

「なまえさん、お昼はどうするの?」
そういえば午前の授業が終わったのだから、次はお昼だ。五年のみんなとは食堂で合流すればいいかなと思ったわたしは、乱太郎くん達三人組にご一緒させてもらうことにした。




教室を出て、食堂に向かっていると、正面から何か赤いものが近付いてきているのが見えた。近くまできてよく見ると、それは蛇だった。しかも毒蛇だ。わたしは魔法薬学で毒蛇の牙なんかを使うから、わりと慣れているんだけど、乱太郎くん達まで落ち着いていたので驚いた。小さくても、やっぱり忍者なのね。

「ジュンコだ!」
「にゃん?」
「三年い組の伊賀崎孫兵先輩のペットで、しょっちゅう脱走するんです」

なるほど、その孫兵くんのおかげで、みんな毒蛇に耐性ができていたのね。毒蛇をしょっちゅう脱走させちゃうなんて、孫兵くん、危ない子だ。それから、猫のわたしに敬語を使ってくれる乱太郎くんに、ちょっと感動した。

「放っておく?」
「でもきっとそのうち、泣いてる伊賀崎先輩に会うと思うぜ」
「仕方ない、一緒に連れていこうか」

きり丸くんがジュンコに近付いて腕を出すと、ジュンコはするするとそこに巻き付いた。随分お利口な蛇なのね。そうして一匹増えたわたし達が再び歩き出すと、正面から走ってくる二人組が見えた。一人は、ハチだ。もう一人は、黄緑の制服を着てる子。

「どこだぁぁジュンコぉぉぉ」
「伊賀崎先輩!ジュンコこっちにいたっすよ」

きり丸くんが、ジュンコの巻き付いた腕を見せると、孫兵くんはすごいスピードでこっちまで来て、きり丸くんの腕に巻き付いたままのジュンコを抱きしめた。

「ジュンコ、心配させるなよ」

ジュンコはシャー、と一声鳴いて、孫兵くんの首に巻き付いた。追い付いたハチが、息を整えている。

「ジュンコが最後か?」
「いえ、まだきみ太郎が!」
「きみ太郎か…」

ハチがおでこを押さえてから、よし、と気合いを入れるように言う。と、わたしとハチの目が合った。ハチがにかっと笑う。

「おー、なまえ!授業どうだった?」
「にゃん!」
「そうか、楽しかったか!よかったよかった」
「竹谷先輩、言葉わかるんですか?」
「なんとなくな」

ハチはしゃがんでわたしの頭をぐしゃぐしゃしてから、また立ち上がった。

「俺逃げた毒蛙探さなきゃいけないから、まだ昼飯いけないんだ。食堂で雷蔵達見たら、先に食べててくれって言っといてくれないか?」
「にゃあ」
「じゃあ頼んだな!」

孫兵くんが、先輩早く!と催促する声に、ハチは走って行った。

「なまえさん、竹谷先輩と仲良しなんだね」

しんべヱくんの言葉に、わたしはにっこり笑った。ぼくもなまえさんの言葉わかるようになりたいなぁ、なんて言ってくれるこの子達を、わたしは大好きになった。みんなとも早く仲良くなりたいなぁ。


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