忍術学園にきて、一週間が過ぎた。生活にはだいぶ慣れたけど、一つだけ言わせてもらえるなら、みんなが授業の間、とても暇だ。午前中丸々寝て過ごすか、少し出歩いて小松田さんとかと話すか、それくらいしかすることがない。あまりにんたま長屋から離れると、危ない実習に出くわしてしまう可能性があるのだ。あ、そういえば小松田さんとはよく話すようになった。小松田さんはいつも門の近くで、お客さんが来ないか見張りながら掃除をしてるから、結構暇そうにしていることも多いのだ。…じゃなくて、その暇な時間に何かすることがないか、わたしはハチ達に相談してみた。

「確かに、長いもんねぇ」

雷蔵が腕を組んで考え始めた。しまった、こうなった雷蔵は最低三時間は悩むのだ。ある意味才能だ。同じことを思ったのか、三郎が素早く意見を出す。雷蔵は他の人の意見に流されやすくもあるのだ。

「なら、一年の授業を一緒に受けてみたらどうだ?一年の授業なら、忍術の基本的なとこも学べるし、実技も危ないことはしないだろ」
「なるほど!」

雷蔵がぱっと顔を上げた。それを受けて、兵助も言う。

「じゃあ俺が土井先生に聞いてみようか?火薬委員会の顧問だから」
「それいいな!」

ハチが笑顔でまとめた。あれよあれよと言う間に、わたしは一年生と一緒に授業を受けることになったのだった。




と言うわけで、その翌日からさっそく、わたしは一年生の授業を一緒に受けることになった。三郎と雷蔵がわざわざ送ってくれた教室には、一年は組、と書いた札がかかっている。教室の扉を開けると、賑やかな声が溢れて、同時にみんなの視線がこっちに向いた。

「あ、雷蔵先輩と三郎先輩だ!」
「おはようございまーす!」

わらわらと集まってくる生徒達。みんな井桁模様の制服だ。一番しっかりしていそうな子がみんなを代表して、三郎に聞いた。

「おはようございます三郎先輩、どうして一年の教室に?」
「おはよう庄左ヱ門、土井先生から聞いてないか?」
「何をですか?」
「それは私から説明しよう。雷蔵、三郎、ありがとう。もう授業始まるから、戻っていいぞ」

割り込んだのは、黒い服のお兄さんだった。雷蔵と三郎は一度わたしを撫でると、失礼しました、と教室を出て行った。

「さあ全員席に着け、授業を始めるぞ!」
「きりーつ、れーい、」
「先生おはようございまーす」

みんなの声が、元気に重なった。うーん、かわいいな。五年で14才ってことは…この子達は10才ね。全員が着席すると、黒い服のお兄さんこと土井先生が、わたしを教卓に上げた。

「えー、この子は今日から一緒に授業を受ける、なまえだ。14才なので、みんなより先輩にあたる」
「先輩にあたる、って、普通猫に先輩なんて付けないですよ、先生」
「実はこの子は猫ではなく、人間だそうだ」

教室がしーんとした。土井先生が一つ咳払いをすると、どわっと笑い声が広がる。

「あり得ないっすよ先生!」
「私も信じられなかったが…どうやら本当らしいんだ」

土井先生の言葉に、生徒達が集まってヒソヒソ話を始める。丸聞こえなので、ヒソヒソ話とは言えないかもしれないけど。

「土井先生があんなに真面目に冗談言うと思う?」
「ううん、しかも授業の時間を潰してまで、あんな面白くない冗談なんて、絶対言わない!」
「じゃあ先生は本当だと思ってるんだ」
「土井先生がほんとって言うなら…」
「ほんとうかも…」

みんなが席に戻った。土井先生は呆れたように見ている。さっき三郎に庄左ヱ門、と呼ばれた子が、ぴんと手を上げた。

「でも先生、なまえさん、って女の人の名前みたいです」
「ああ、なまえは女の子だ」
「じゃあどうしてくの一教室じゃなくて、一年は組なんですか?」
「それは…」

土井先生の握った拳がぶるぶると震えた。

「くの一教室はもう先に進んでいて、今から入っても着いていけない…しかし一年は組はどうだ?補習に学園長の迷惑な思いつきにで、未だに教科書がちっとも進んで、いない!」
「つまり一年は組の授業なら、今から入っても着いていける速度ってことですね!」
「それが恥ずかしいことだとわかってるのか!」
「庄ちゃん相変わらず冷静ねぇ…」

土井先生は怒りながら泣いていた。真面目で熱血な先生なんだな。ホグワーツでは普段、授業中にいたずらの計画ばかり考えていたわたしは、なんだか申し訳ない気分になった。特に魔法史。ごめんなさい、でもわたしはきっとまたやります。


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