少し肌寒くて、目が覚めた。そろそろ授業が終わる頃だろうか。寝る前は陽が当たって暖かかった場所が、影になっていた。わたしが移動しようと立ち上がったとき、ふと手元にいた何かに気が付く。ぬるっとしたそれは、ナメクジだった。わたしも一応魔女なので、ナメクジやカエルやヘビを見て、叫んだり怖がったりはしない。特にすることもないし、わたしはそのナメクジを見ていることにした。

なんだかそのナメクジは、面白かった。ナメクジを観察だなんて、わたしも相当ヒマだなぁと思ったりしたけれど、そんなことはなかった。そのナメクジはわたしが見ていることがわかっているのか、クネクネと踊ったり、芸のようなことを始めたのだ。わたしが感心して見ていると、一人の男の子が走って来た。ハチ達の服は伊作先輩や喜八郎達のものと色が違っていたけど、その子の服には柄もついていた。見た目の雰囲気も合わせて考えて、多分この服は一番下の学年の制服なんだろうな。

「ナメ太郎〜!」

男の子はナメクジを見るなり、ナメクジに向かってダイブしてきた。わたしはびっくりして、少し後ずさる。男の子は持っていた壺にナメクジを入れると、中に入っているナメクジの数を確認した。わたしも少し近付いて、それを覗いた。壺の中にうじゃうじゃとしているナメクジは、その辺の女の子が見たら鳥肌が立ちそうな光景だ。覗いているわたしに気が付いた男の子が、にこっと笑ってわたしに話しかけた。

「君はナメクジさん好きなの?」

別に、好きでも嫌いでもない。でも、首を振ったらこの子は悲しむんじゃないかな、と思った。とりあえず今は、普通の猫のふりをしておこう。猫は普通、そんな質問には答えられないものだしね。

やっぱり男の子は、わたしが返事をしないことなど気にしないように、ナメ太郎と遊んでいてくれてありがとうね、とわたしの頭を撫でた。わたしが楽しませてもらっていたんだよ、と男の子に向かって鳴いた。と、そのとき、曲がり角の向こうから、誰か歩いてくる音がした。男の子は少し焦ったように、それじゃあね!と言って、行ってしまった。そりゃあ、先輩の部屋の前に一人でいたら、気まずいよね。

「なまえー」
「あれ、今誰かいなかった?」
「一年だったな、装束が井桁模様だった」

足音の正体は、ハチと雷蔵と三郎だった。兵助がいない。首をかしげると、ハチが気が付いてくれた。

「兵助はい組だから、まだ授業みたいだな」

ハチはもう文字なしでも、わたしの考えを大体わかるらしい。すごい。それより、い組ってなんだろう?

「い組ってなんだろう、って顔してるな?」

にやりと笑った三郎が言った。三郎も人の考えてることを読むのは得意そうだ。わたしが頷くと、三郎が説明してくれる。

「忍術学園には一年から六年まであって、各学年、い組とろ組とは組に分かれているんだ。い組のが成績優秀で、は組はおばか。兵助はい組で、私達はろ組だ。」

つまり、兵助は頭がいいんだ。ついでだと思い、わたしはもう一つ質問をすることにした。制服の色の話だ。何色が何年生なのか、いまいちわからない。あと、よく考えたらハチ達の学年も知らない。ひらりと地面に飛び降りて、土に文字を書く。

「何々?…ああ、制服の色はね、一年が水色に井桁模様、二年は青、三年は黄緑、四年は紫。僕たちの着てるのが五年の制服で、緑が六年だよ」

今度は雷蔵が説明してくれた。雷蔵達は、五年生なのね。同い年だけど一つ上なのは多分、ホグワーツと入学の年齢が違う、とかだろう。わたしが納得したよ、と頷くと、雷蔵はにっこりした。それからふと顔を上げて、兵助が戻ってきたみたい、と呟いた。わたしも顔を上げると、疲れた表情の兵助が歩いてきた。服が少し汚れている。

「疲れた…」
「お疲れさま、実習だったの?」
「や、石火矢の授業」

兵助は体についた煤を払った。兵助からは、少し火薬のにおいがした。わたしが近付いて、お疲れさま、と鳴くと、兵助は笑顔になって、わたしの頭を撫でた。

「心配してくれてんのか?」

ちょっと、違う。やっぱり、まだハチみたいにはわかってもらえないな。でも心配しているのも確かなので、わたしはもう一声鳴いてから、大人しく兵助に撫でられていた。


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