喜八郎と滝と別れてから、わたしは大人しく部屋に戻った。なんだか今日は、すごく疲れた。忍者の学校と言うだけあって、ハードだ。少しお腹も空いてきたし、多分そろそろお昼なんじゃないかな、と考えていたら、ごーんと鐘の鳴る音が聞こえた。途端に、ざわざわと声が聞こえはじめる。授業が終わった合図だったんだろう。わたしが部屋でうつ伏せに転がって、そのざわざわを聞いていると、障子が開いた。
「なまえ!」
顔を上げると、にこにこしているハチだった。走ってきてくれたのか、ちょっと息がきれてるみたいだ。冒険(?)をした後に見るハチの顔は、すごく安心感があった。わたしが駆け寄ると、ハチは嬉しそうにへらっと笑った。
「昼飯だぞ」
ハチはわたしの頭をぽんぽんと撫でると、食堂に向かって歩きだす。正面から、追いついた兵助が来た。
「はっちゃん速いって」
「なまえが心配だったんだよ!」
「まあわかるけど」
兵助は苦笑いして、わたしを見た。そして、わたしの背中辺りを触る。
「お前、この辺汚れてるな」
「ほんとだ、どうした?」
多分、穴に落ちた時の砂が残っていたんだろう。書くものもないので、外を示して鳴くと、二人ともすぐにわかったらしく、苦笑いした。
食堂では朝と同じように、雷蔵と三郎が先に席をとっていた。
「あれ、雷蔵もう決まってんの、珍しい」
「もうこっちしか残ってなかったんだ」
照れ臭そうに笑う雷蔵の隣に、わたしは降ろされた。雷蔵が箸を置いて、わたしを撫でる。
「やあなまえ、学園を散歩したかい?」
わたしが頷くと、雷蔵はまたにっこり笑った。雷蔵の笑顔は、ハチとは少し違う意味で、キラキラしている気がする。同じ顔でも、三郎の笑顔は全部、ニヤリと笑っているように見えるのに。
「なまえ、おばちゃんがなまえの分もくれたぞ!」
おぼんを持って戻ってきたハチが、わたしの前にお皿を一つ置いた。メニューはみんなと同じような物で、食べやすいように切ってくれたりしてある。すごく嬉しくて、わたしはおばちゃんの方を見てお礼の代わりに鳴いたけれど、当然おばちゃんは気付かない。それを見ていたハチが、食べ終わったらおばちゃんのとこ連れてってやるからな、と笑った。
ご飯を食べ終えて、おばちゃんにお礼を言って、昼休みが終わって、わたしは再び部屋でお留守番だ。今度は出歩かず、部屋から外の様子を眺めていた。どうやらここはみんなの部屋があるだけの建物で、授業の間はあまり人気がないようだった。たまに遠くから、声が聞こえてくる。そののどかな雰囲気と、適度な暖かさもあって、わたしは気付いたら寝ていた。