秀作さんが去った後、わたしはしばらく部屋でごろごろしていた。けれど、ずっと部屋にいるのもなんだかつまらないので、細く開いた障子の隙間から、首だけ出して、辺りの様子を伺う。どうやら、人はいないみたいだ。それを確認したわたしは、するりと廊下に出た。どこからか、元気な声が聞こえる。ハチ達より幼い感じの声だから、下級生かな?そんなことを考えながら、耳を澄ましながら、声のする方へ歩いて行く。だいぶ声が近付き、そろそろ姿が見えるかな、と思ったとき、突然視界が真っ暗になった。

「?!」

一瞬遅れて、体に衝撃。どうやら、わたしは落とし穴に落ちたみたいだった。さすが忍者の学校、敷地内に落とし穴の罠を仕掛けておくなんて!そんなことはいいとして、とにかく、上に上がらなきゃ。見つけてもらえなかったら、大変だ。

「おや、まあ」

わたしが必死に土を引っかいて上に登ろうとしていた時、上からのんびりした声が降ってきた。上を見れば、一人の男の子が穴を覗き込んでいた。おやまあ、じゃなくて、助けて!という意味を込めて、わたしは鳴く。

「にゃーん」
「どうして、こんなところに猫が」

ひょい、と穴に入ってきたその子は、じっとわたしを見た。もう一度、にゃん!と鳴くと、男の子はわたしを抱き上げて、落ちたときについた土を払ってくれた。

「喜八郎ー!どこに行ったー!」
「滝」

上から、大きな声が聞こえて、男の子が上を向いた。彼はキハチロウ、って言うのかしら。わたしもつられるように上を向くと、ひょこっと男の子が顔を出した。

「こんなところにいたのか!実習をサボって!」
「サボってない。猫が落ちてたから、助けてた」
「猫?」

さっき、タキ、と呼ばれていた人が、わたしを見た。それから、フンと鼻で笑う。

「小汚ない猫だな」

失礼な!小汚ないのは落ちたからだ。わたしは滝に向かって威嚇する。気付いた喜八郎が、もう一度わたしの体の土を払いながら、言う。

「滝は性格が残念だから、気にしたら、駄目」

真剣な顔で言った喜八郎に、思わず少し笑った。こくこくと頷くと、上で怒っていたタキが、少し驚いたような声を出した。

「なんだ、言葉がわかるのか?忍猫か?」
「さあ」

喜八郎は特に興味もなさそうに答えて、わたしを抱いたまま穴を飛び出た。見事地上に着地すると、わたしを地面に降ろしてくれる。
「もし忍猫なら、誰かの飼っている猫か」
「もう落ちるんじゃないよ」
「シカトか!まあいい、早く実習に戻るぞ」
「じゃあね」

結局最後まで滝を無視した喜八郎は、わたしに手を振って、走って行った。滝も文句を言いながら、それを追う。わたしは二人が見えなくなるまでしっぽを振りながら、ニンビョウってなんだろう、と考えていた。






×××
忍猫は忍犬の猫バージョン的な意味でとって頂ければ…あるのかな、忍猫って。ちなみにニンビョウと読むつもりです。
あと実習は、い組コンビvs三木とタカ丸コンビで、先に相手を罠にかけたら勝ち的な


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -