わたしは暗闇の中で目が覚めた。少し埃っぽいそこは、ハチと兵助の部屋の押し入れの中だ。暗い中でぐぐーっと伸びをしていたら、スパーン!と音を立てて、ふすまが開いた。少しびっくりした。
「朝だぞ!…お、もう起きてたか」
「にゃーん」
ハチにおはよう、という意味を込めて鳴くと、ハチもおはようと笑った。やっぱりハチは、こう、相手の気持ちを考えてくれてる!って感じがする。ハチに頭をぐりぐりされていたら、その後ろから、着替えた兵助が、ひょこっと顔を出した。
「おはよう、なまえ」
「にゃあ」
「お前も飯行くか?」
ハチが着替えに行って、代わりに兵助がわたしの喉を撫でた。うわ、やばい、気持ちいい。忘れてたけど、ネコの弱点だった。わたしは少し、とろんとしながら、兵助の言葉に頷いた。
「あ、そういえば、昨日も言ってたけどさ、なまえって普通に人間の食べるもの食べていいの?」
兵助が喉を撫でるのを止めて聞いてきた。ちょっと寂しいと思いながらも、わたしは頷く。普段あまり意識していないけど、ホグワーツでは、動物のままで、みんなで一緒にお菓子を食べたりした。ネコにチョコレートは駄目と聞くけど、わたしは普通に食べていたし、甘さも感じた。まあ、元が人間だからかな。そういうことにしておこう。お腹空いてるし。
「兵助、行くぞー!」
「あ、うん。はっちゃん、なまえも行っていいだろ?」
「おー」
ハチもにっこり笑ったので、わたしは二人について部屋を出た。しばらく歩くと、いい香りがしてくる。あまり食べたことがないけど、これは多分、味噌汁ってやつの匂いだ。日本に行った時に、食べた気がする。
「ほら、ここが食堂」
人が多くなってきて、わたしが人の足元を縫うようにあるいていると、兵助がわたしを抱き上げた。
「人多いから、ちょっと我慢しろな」
わたしは頷く。一応、気を使ってくれているのか、お姫様だっこのような抱き方だった。そのまま、わたし達は食堂に入る。奥の方の席で、三郎が、こっちこっち、と手を振っていた。ハチと兵助は、机の間を進んで、その席まで行く。
「おーす」
三郎は箸を片手に挨拶した。わたしは一言にゃん、と鳴いて、きょろきょろ周りを見た。雷蔵が、いない?
「あー、雷蔵はA定食かB定食か迷ってる」
三郎が指差した方を見ると、二つのお盆を見比べて唸っている雷蔵がいた。優柔不断なのかしら。こっちに気付かないかなぁとしばらく見ていたけど、兵助がわたしを椅子に置いたので、見えなくなった。俺も取ってくる、と言って兵助がわたしから離れようとしたとき、立ち塞がるように人が現れた。