「そういえば、なまえ、雷蔵と三郎の名前覚えてたんだね。私はわかるか?」
ヘイスケが、わたしの顔を覗き込んで聞いてきた。わたしはこくんと頷き、紙に"ヘイスケ"と書いた。
「お、すごい、正解」
ヘイスケは嬉しそうに笑った。それを見ていたハチが、俺も俺も、とわたしに言う。なので、わたしが紙に"ハチ"と書くと、サブロウがブッと笑った。
「ハチで覚えられてるぞ」
「…別に、ハチでも構わないけどな。俺は、竹谷八左ヱ門って言うんだ。呼ぶ時は、ハチでいいから」
つっても、猫だから呼べないか、とハチは笑った。タケヤ、ハチザエモン。覚えておこう。
「俺は久々知、久々知兵助な」
ヘイスケはそう言って、わたしの歪なカタカナの隣に、兵助、と漢字を書いた。難しくて覚えられないけど、ヘイスケがククチ ヘイスケって言うのは覚えた。
「僕はね、不破雷蔵だよ」
「私は鉢屋、三郎だ」
フワ ライゾウと、ハチヤ サブロウ。わたしは首を縦に振って、覚えたことをアピールした。
「ところでなまえ、お前はどうして学園にいたんだ?」
ハチが言った。突然話題が自分のことになり、わたしは少し驚いた。ハチは真剣な目をしていた。でも、そんなのわたしが聞きたい。ジェームズのせい、と言ってわかってくれる人は、ここにはいないのだ。とりあえず、ありのままに、書いてみる。
「がっこうできをうしなって、きづいたらここにいた、と」
「なんだそりゃ」
ヘイスケが眉間に皺を寄せた。でも上手い説明が思いつかない。きっと、この四人はマグルだ。あんまり魔法のことは、言わない方が、いいのかもしれない。
「じゃあ、その学校にいた間は人間だったの?」
雷蔵に聞かれて、頷く。嘘は言っていない。でも、アニメーガスの説明も、難しいなあ。わたしが次に何を書くか迷っていると、ハチがまたわたしの名前を呼んだ。
「つまり、なまえは今、野良猫の状態なんだろ?」
野良猫。確かにそうだな、と思って、わたしは頷いた。
「じゃあ、今日の夜とかどうすんだ?どうやって来たか知らないけど、家が外国なら、そう簡単に戻れないだろ」
続けて聞かれて、わたしは思わずギクリとした。考えてなかった。それこそ、野良猫のように、暮らしていくしかない。わたしは、耳をぺたんと垂らした。ところが、ハチはそんなわたしの顔を覗き込むようにして、また話しかけてきた。
「よかったら、帰れるまで、ここにいろよ」
「…にゃ?!」
びっくりしてハチを見ると、にっこり笑っている。ハチの笑顔は、なんだかキラキラして見える。どうしよう、とヘイスケの方を見ると、ヘイスケははぁ、とため息を吐いた。
「はっちゃんなら絶対そう言うと思ったよ」
「いいだろー、兵助」
「はいはい」
ヘイスケが苦笑いして、わたしを見た。
「はっちゃんこういう奴だから、なまえも遠慮することないよ」
ぽんぽん、とヘイスケに頭を撫でられる。ハチと違ってぎこちない手付きだけど、優しいのは一緒だ。わたしが、そっと、頷くと、ハチは嬉しそうに笑った。こうしてわたしは、ジェームズが反省するまでの間、ここ、忍術学園でお世話になることになったのだ。