引越しと言っても所詮は自転車20分の距離だ。わたしは必要最低限の物だけを綱海のアパートに運び込んで、ついでに簡単に掃除をした。ちなみに、祖父母はすぐに許してくれた。綱海家とは小さい頃から家族ぐるみのお付き合いだし、綱海はうちの家族達に気に入られていたので、おばあちゃんなんか「条介ちゃんが一緒なら安心ねぇ」なんて言っていた。


そして翌日、日曜日。わたし達の目の前には、アパートに似合わない高級車が停まっている。綱海は心配そうにしている運転席のお父さんらしき人としばらく話してから、後ろのドアを開けた。そこから、ぴょんっと一人の男の子が飛び出した。それから綱海はトランクを開けて、荷物を取り出すと、再び運転席に声をかけた。

「全部降ろしたっす」
「それじゃあ条介君、悪いが、しばらくの間頼んだよ」
「はい!」

綱海のにっこり笑顔に、両親は少し安心したような表情を見せた。それから高級車は、慌ただしく走り去って、わたしと綱海と男の子、それにいくつかの荷物がポツンと残った。

「なまえ、紹介するな!こいつは俺のいとこの兵太夫、小4だ」
「兵太夫くんね。よろしく!」
「…おねーさん、だれ?」

兵太夫くんは綱海の後ろに隠れるようにして言った。わたしは兵太夫くんに目線を合わせ、笑う。

「わたしは、なまえって言うの」
「なまえは俺のか、か、彼女なんだぞ、兵太夫!」
「ふうん、一緒に住むの?」
「うん。だから、よろしくね」

兵太夫くんはわたしの言葉には答えず、錆びた階段を上って行ってしまった。綱海の部屋が二階だと知っているみたいだ。綱海は苦笑すると、ちょっと照れてるだけだろ、と言って、荷物を持って階段を上がった。荷物はまだいくつか残っているので、落ち込んでいる暇はない。わたしは腕捲りをして気合いを入れると、おおきな鞄を抱えて、階段に向かった。


綱海のアパートは、狭いキッチンが一つ、トイレとシャワーが一つずつある。ワンルームだけど、ロフトがくっついていて、半分は綱海とわたしの荷物が置いてあるけど、もう半分は昨日兵太夫くんのスペース用に片付けたのだ。わたしが荷物を運び込むと、兵太夫くんはせっせと荷物を広げているようだった。

「条介にい、勉強机ないの?」
「ない!勉強はこのちゃぶ台でやってんだ」

綱海はぼんぼんとちゃぶ台を叩いて笑った。兵太夫くんは一瞬ぽかんとしてからまた、ふうん、と呟いた。

「兵太夫はぼっちゃん育ちだからなぁ、ちゃぶ台は嫌か?」
「別に、いやじゃないよ」
「そうか!」
「うん」

ううーん。兵太夫くん、なかなか無愛想だ。にこりともせずに、また荷物を整理する作業に戻ってしまった。仲良くなるには時間がかかるかもしれない。

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