「ねー条介、ピザ何がいいかな」
「それより早く準備しろよな!もうすぐ時間だぞ」
「うそ、もうそんな時間?コートと財布と鍵と…携帯!条介、わたしの携帯見なかった?」
「知らねーよ!置いてったらいいじゃねーか」
「駄目!連絡くるかもだもん」
「俺の携帯でいいだろ」
「えー、今まで連絡とってたのわたしなんだから」
「わかったよ!んじゃあ、ポケットの中見たか?鞄に埋もれてねぇか?ベッドの上とかリビングのテーブルは?」
「あ!多分洗面所だ!さっき持っていったんだった」
「早く取ってこいよ!車乗ってんぞ」
「はーい」

綱海なまえ、26歳。2年前結婚したわたしと条介は、生意気にも、最近マイホームを建てた。お金はなくても幸せいっぱい、なんて甘い考えが、わたし達らしい。条介がサッカー選手になってガンガン稼いでくれてたら、とか、持ち前の勝負強さで宝くじを当ててくれたら、とか考えてしまうこともある。けれどまあ、条介は一応、体育の先生になりたいという夢を叶えたし、わたしも無事就職できたし、妥当に順調な人生なんじゃないだろうか。

そして今、わたし達は条介の運転する車で、空港に向かっている。7年前、わたし達と暮らしていた、そして今はアメリカに留学している兵ちゃんが、帰ってくるのだ。兵ちゃんの両親は相変わらず仕事があるらしく、わたし達がお迎えを名乗り出たのだ。駐車場に車を停めて、ロビーに向かう。散々探した携帯を開いて見ると、兵ちゃんの飛行機が到着する時間を少し過ぎていた。

「兵ちゃん久しぶりだなー」
「だな!一年弱ぶりか」
「かっこよくなっちゃってんだろうね!ずーっとうちなーんちゅのわたし達と違って、アメリカだよアメリカ」
「アメリカっつったら、一之瀬の試合、もうすぐだったか?」
「あ、そうそう。秋ちゃんからこの間メールあってさ。アメリカなんか行けないけど、いつか機会があったら見に行きたいよねー」
「そうだな!英語なんか、受験以来だから忘れちまったけどな」
「んじゃあディランとかマークに案内してもらおうよ。この前テレビで見たけど、マークますますかっこよくなってたよー、俳優みたいだもん!」
「懐かしいな、ディランにマーク…」

条介が言いかけたとこで、わたしの携帯が震えた。慌てて開くと、兵ちゃんからの着信だった。

「もしもし!」
「もしもし、なまえ姉?ロビーに着いたんだけど、今どこ?」

懐かしい、少し低くなった兵ちゃんの声。きょろきょろするが、同じ便に乗ってきたであろう人がロビーに溢れ、一気に騒がしくなっていて、見つけられない。

「わたし達もロビーだよ」
「じゃあ、入口に向かうから、なまえ姉達も入口ら辺にいてくれる?」
「わかった」

わたしと条介は、言われた通り入口に向かう。前からしっかり者だった兵ちゃんは、高校生になってますますしっかりして、わたし達は引っ張られる側になってしまった。入口に向かう途中、黒い大きなキャリーバッグを引いている男の子を見付けた。特徴的な、茶色っぽいくせ毛。

「兵ちゃーん!」
「、なまえ、姉!」

くるりと兵ちゃんが振り向いた。整った顔は大人に近付き、ますますかっこいい。アメリカでもモテただろうな、なんて親の気持ちでにやけた。

「久しぶりだな、兵太夫!」
「条介兄も!わざわざ、ありがとう」
「気にすんなって!もう俺ら、家族も同然だろ!」
「うん…うん」
「おかえり兵ちゃん!」
「ただいま」

ぎゅうっと抱きしめたら、兵ちゃんは照れてもがいたけど、さらにその上に条介が被さったので動けなくなって、諦めた。懐かしいなあ、この感じ。

「ねえ、条介兄達、家建てたんでしょ。見に行きたい」
「そうなの!来てきて!」
「新築だから、すごい綺麗だぞ!」
「前はボロアパートだったのにね」
「うるせえよ」
「まあまあ、じゃあ早く帰ろ!」
「そうだな!」

条介は兵ちゃんのキャリーを持って、駐車場に歩きだした。





「兵ちゃん、ピザ何がいい?」
「げ、お前車にまで持ってきたのかよチラシ」
「だって決まんなかったから…」
「僕はなまえ姉の手料理のがいいな」
「あら」
「色気づいてんじゃねーぞ、兵太夫!」
「別に色気づいてないよ」
「じゃあピザ止めて料理しよっかなー!」
「お前も調子乗ってるな」
「いいでしょ、兵ちゃんが久しぶりの日本で一番にわたしの料理食べたいって言うんだから」
「そら、ピザはアメリカで存分食えんだろ」
「!!」

確かにピザといえばアメリカンなイメージ。忘れてた。

「そういうとこ抜けてんだよな、お前」
「ごめんねー、兵ちゃん」
「いいよ。僕、なまえ姉の芋の煮っ転がし食べたい」
「おばあちゃん直伝のね!まかせて!」

兵ちゃんのご両親も、うちが新居になったってことで仕事終わりに直接うちに来る約束になっているので、兵ちゃんはそのままうちでご飯を食べる。思えば、兵ちゃんのご両親とも仲良くなったものだ。

「兵太夫、アメリカで金髪美人の彼女作ってきたか?」
「条介、質問がおやじだよ」
「ん、別れてきた」
「って、いたの?!」
「勿体ないことするな〜お前」
「だって、日本に帰ったらなまえ姉に会えるって思ったら、さ」
「え?!」
「おまっ…人の嫁さんになんてこと…」
「僕の初恋の人、なまえ姉なんだ」

思わず助手席から兵ちゃんを振り返ると、兵ちゃんもこっちを見ていて、ちょっぴり妖艶に笑いかけられる。

「なまえ姉、条介兄に飽きたら、いつでも僕に言ってよ」
「やばい、ときめいた」
「おい!」
「冗談だよ」

兵ちゃんは表情を崩し、くすくすと笑った。よかった、この笑顔は昔から変わらない兵ちゃんの笑顔だ。

「安心して。僕は二人が一緒にいるのを見てるのが、一番好きなんだ。僕が知ってる夫婦の中で、一番お似合いだよ」

兵ちゃんがそんなことを言うものだから、わたしは条介と兵ちゃんのことをますます愛しく思ってしまうのだ。



11/11/22 いい夫婦の日

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テーマ「人外ファンタジー」
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