わたしのバイト先は個人経営の小さな洋食屋さんである。キッチンは店長だけ、もしくは店長プラス一人。ホールは二人か多くて三人。産地にこだわった野菜を使用していたり、店長が外国で修業してきた人だったりで結構美味しいのに、値段は安いため、そこそこの知名度と人気。なかなか忙しい。お給料はそれほどいい訳じゃないけど、さすがと言うか、賄いが美味しい。最近は綱海と兵ちゃんのご飯があるから、食べないことが多いけど。まあそれはいいとして、最近店に、高校生のバイトくんが入ってきた。わたしは最近彼に悩まされているのだ。

「あのすいません、取り皿ってどこにありましたっけ…うわあ!」

がっしゃーん。バイトくんの下げてきたガラスのコップが大きな音をたて割れた。お客さんに謝って、手早く処理。

「すすす、すいません〜!」
「いいから取り皿、早く持っていってあげて。そこの棚にあるから、もう忘れないでね、小松田くん」

そう、バイトくんの名前は小松田秀作くん。大変なドジっこなのである。一生懸命なのだけど、覚えも要領も悪い。ただ癒し系なオーラのせいか、お客さんからは微笑ましく見られている。教育係を任されたわたしの身にもなってほしい。店長はあまり怒ったりしない優しい人だし、一生懸命で意欲のある小松田くんを気に入っているけれど、お皿やコップが割れる度に、なんとも言えない表情になっていることをわたしは知っている。今度は割らずに、無事取り皿をお客さんに届けた小松田くんが、しゅんとしてわたしの元に戻ってきた。

「なまえさん、本当にごめんなさい。僕、昔からこうなんです」
「いや、うん、頑張ってるのは伝わってきてるから大丈夫、ゆっくり仕事覚えて」

いつもよりたくさんのコップを割ったからか、小松田くんはいつもより落ち込んでいるようだ。怒るに怒れない。

「小松田くん、お客さんの前では笑顔でね!」
「は、はい」

ちょうどその時、からんからんと店の戸が開く音がした、

「よし小松田くん、ご案内」
「はーい!」

パタパタと走っていく小松田くんを尻目に、わたしはコップなどを拭いていた。しかし小松田くんが、あー!と叫んだので、思わず顔をぐりんと彼の方へ向けた。わたしだけでなく、店長やお客さんもだ。

「ど、どうしたの小松……て、綱海!」
「おー、なまえ!」
駆け寄ると、綱海と綱海の友達らしい人が立っていた。小松田くんは、その友達らしい人を見てにこっと笑った。

「兄ちゃん!」
「兄ちゃん?!」
「どうも、秀作の兄の優作です。いつも秀作がお世話になってます」

丁寧に言われ、思わずいえいえと頭が下がる。確かによく似ている。性格は全然、違うようだけど。

「小松田も教育学部の奴なんだ!たまたまなまえと小松田の弟が同じとこでバイトしてるって話になって盛り上がって、来ちまった!」
「と…とりあえず、ご案内して小松田くん」

小松田くんは嬉しそうに頷いて、時間のせいか結構すいている店内に二人を案内した。お冷やを用意しようとしたわたしを、店長がちょいちょいと呼ぶ。

「さっきの小松田くんの叫び声、大丈夫だった?」
「あ、大丈夫です。小松田くんのお兄さんが来たみたいで。あと、綱海も」

綱海はちょくちょく兵ちゃんと来たりするので、店長も知っている。店長は、あー、と頷いて、ちらっと小松田くん達の方を見た。

「なまえさあん!ハンディがおかしいです〜!どうしましょう〜」
「あーはいはい、待って待って」

苦笑いした店長に見送られ、わたしは小松田くんの元へ駆け足。手のかかる後輩だけど、まあ、嫌いじゃないかな。

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