7月である。沖縄は暑さを増して、わたしと兵ちゃんはバテ気味なのに、綱海は相変わらずの元気だ。むしろ夏ということで、いつもよりも生き生きとしていた。

「おーす、起きろー!兵太夫、なまえ!」
「んー、」
「おはよ、綱海」

日曜日。綱海は珍しく一番に起きて、カーテンを開け放った。眩しい光に、わたしと兵ちゃんもモゾモゾ起き上がる。

「シャキッとしろよお前ら!今日は海に行くぞ!」
「海?」
「散歩散歩!」

綱海は楽しそうだ。わたしもさっさと布団を片付けると、ちゃぶ台を出し、朝食の準備を始める。うきうきしている綱海が手伝ってくれて、準備はすぐに終わった。三人揃って手を合わせて、いただきます。こういうとき、なんかほんとの家族みたいだなあって感じる。

「あれ、なまえねえ。今日のみそ汁、なんか味濃いめ?」
「あ、それ綱海が味付けしたの」
「んー、確かになまえの味とは違うな…」
「でも美味しいよ、綱海」
「まあな!」

綱海はニッと笑って、お椀を置いた。

「ごちそーさん!」
「食器洗ってね」
「任せろ!」

機嫌のいい綱海はいろいろ手伝ってくれて助かる。



食事を終えて、綱海はサーフィンのセット、わたしは日焼け止めグッズと財布と携帯を持って、家を出た。綱海の貴重品は兵ちゃんが持っている。

「あっちー!夏だな!」
「条介にい、楽しそうだね」
「おう!楽しいぜ!」

海までは歩いて10分程度だ。波の音が聞こえてきて、わたしも自然とうきうきしてくる。大海原中にいた頃は、毎日授業中に、この音を子守唄にして寝ていた。高校生活も今の大学生活も楽しいけれど、思い返してみて一番楽しいのは、やっぱり中学時代だった。

綱海がさっさとサーフィンの準備に行ってしまったので、わたしは兵ちゃんと出店を見に行くことにした。まだ控え目だけどお店は開いている。

「綱海、散歩とか言って、自分がサーフィンしたかったんじゃないの、ね!」
「でも僕、綱海にいがサーフィンしてるの見るの好きだよ」
「まあ、わたしも好きだけどさ!」

しかも海を見て心が躍っている自分がいる。ちょっと綱海に負けたみたいで悔しいけれど、沖縄人の性だ。兵ちゃんも楽しそうに砂を蹴っている。

「あ、かき氷屋が出てる!食べようよ兵ちゃん!」
「食べたい!」
「何味がいい?わたしイチゴにしよー」
「僕レモンがいい!」

財布を取り出して、イチゴとレモンのかき氷を買う。綱海は確かブルーハワイが好きなんだ。溶けちゃうから買わないけど。店のおじさんは氷を大盛りにして、シロップもたくさんかけてくれた。レモンの方を兵ちゃんに渡して、適当なパラソルの下に座る。あっついな。

「お、いーもん食ってんな!」

海パンにサーフボードを持った綱海が、ドカッとわたし達の前に座った。

「食べる?」
「おう!」

あーんと口を開ける綱海。餌を待ってるヒナ鳥のようだ。わたしはプラスチックのスプーンで大盛り一杯、氷を掬って、綱海の口に運んだ。

「んめー!冷てー!」

綱海は頭にキーンときたのか、目をギュッと閉じた。それから再びサーフボードを持って立ち上がると、ビーチサンダルを残して海に駆け出した。

「綱海元気ー」
「あーんだ」
「へ?」

兵ちゃんがちょっと赤くなっている。

「あーん」
「ああ、さっきの?」
「うん」
「別に気にしなかったけど…」
「なんか普段それっぽくないけど、今恋人っぽかった」

あーんくらい誰にでもやれるけど、そんな風な目で見られると逆に照れる。照れ隠しに、いたずらっぽく笑って、一掬いしたかき氷を兵ちゃんに見せる。

「兵ちゃんにもやってあげようか」
「えっ!僕はいい…」
「照れなくていいのに!」
「いい!条介にいに悪いもん!」
「そんなん、気にしなくていーのに」

そういえば、小学生の頃の恋人っぽいの感覚なんて、こんなものだったかも。一口ちょうだいって時に、あーんとか間接キスとか気にしちゃって、照れちゃったり。今思うとその感覚が鈍くなったのも中学生の頃かも。一番多感な時期っぽいけど、わたし達の部活は仲良かったし、回し飲みとかしょっちゅうだった。懐かしいな、今度大海原中行ってみようかな。高校生で後輩がいた間は何回も行ったけど、顔見知りの後輩がいない今はちょっぴり行きにくい。でも、監督にも会いたいし、中学の時の仲間を誘って行こうかな。

「おー、乗ってる乗ってる」
「ん?何が?」
「条介にいが、波に」

海を見ると、綱海がひゃっほう!と太陽を背にジャンプしていた。水に濡れても頑固に重力に逆らうピンクの髪と、昔いつも付けていたやつとは違うゴーグル。綱海も昔とは違っていて、大海原中が変わってしまってはいないか、なんて無駄に不安になったりした。

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