「兵太夫くんって、兵ちゃんって呼ばれてるんだね!」
「え、うん」
「わたしも兵ちゃんって呼んでもいい?」
三ちゃんが帰った後、兵太夫くんと一緒に里芋の皮剥き(今日のおかずは、おばあちゃん直伝の煮っ転がし!)をしている最中の会話。兵太夫くんは、ぱっと顔を上げた。
「う、うん!」
なんだか嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃなかったらいいな。
「ありがとう、兵ちゃん!」
「じゃあさ、あの、僕も」
「ん?」
「なまえ姉さん、て、呼んでも…いい?」
ちら、とわたしの顔を伺ってから、恥ずかしそうに顔を伏せる兵ちゃん。ああもう、可愛いなぁ!
「もちろん、いいよ」
「あ…ありがとう!」
にこりと笑った兵ちゃんをギュッとしたかったけど、イモと包丁を両手に持っていたので我慢して、その代わり満面の笑顔で応えた。実はずっと、綱海のことだけ条介にいって呼んでるのが、ちょっと羨ましかったりしたのだ。
「ただいまー」
「あ、条介にい」
兵ちゃんはイモを持ったまま、顔だけ出して綱海を迎えた。
「兵ちゃん、もうできるから行っていいよ」
「そう?」
「うん。手伝ってくれてありがとね」
兵ちゃんはにこっとしてから、手を洗って、綱海の方に走って行った。難しい宿題が出たから教えて欲しいらしい。わたしは数学、というか算数から嫌いで、この前に聞かれたとき兵ちゃんと一緒になって悩んでしまってから、聞かれなくなった。
「条介にい、算数教えて」
「なんだ、また算数か」
「算数以外はなまえ姉さんが教えてくれるから」
「そうなのか…って兵太夫、呼び方変えたのか!」
「うん」
綱海はそっかそっかと嬉しそうに笑った。それからちょっとだけいじけたような顔をする。
「なんかお前らどんどん仲良くなってんなー」
「いいでしょう」
そう言ってわたしがコップと麦茶をちゃぶ台に持っていくと、急に綱海がわたしと兵ちゃんをまとめて抱きしめた。
「俺も仲間入れろよなー」
「綱海いじけてる?」
「おう」
「僕は、」
兵ちゃんが少し語気を強めた。綱海がわたし達を放して、兵ちゃんの顔を見る。
「僕は条介にいもなまえ姉さんも好き、だよ」
兵ちゃんがあまりに真面目な顔で言ったから、思わず胸がきゅんとしてしまった。今度はわたしと綱海が左右から、兵ちゃんに抱きついた。
「兵太夫ー!お前なんか素直になったな!」
「わたしも好きだよ兵ちゃーん!」
「俺も!」
ぎゅうぎゅう抱きつくと兵ちゃんはちょっと苦しそうにしたけど、笑顔だった。
絆が深まった気がする、そんな5月。