7時過ぎに綱海がバイトから帰ってきた。今日のバイトは小学生の子の家庭教師らしい。綱海は大学も教育学部に通っているし(まあ、体育の先生になりたいって言ってたけど)、子どもに何かを教えるのは上手い。ちなみに、綱海のバイト代は、主にバイク代として貯められている。食費は兵太夫くんの両親持ちだ。綱海は遠慮したけど、やっぱりご両親もそっちの方が安心なのかも。少なくとも、お金がなくて食いっぱぐれる心配はない。心配されてしまうのは貧乏学生の性だ。家賃は、わたしも3分の1払っている。割り勘って言ったのに、綱海はそれを断って全額自分で払うと言ったので、間を取って(?)2:1ってことで納得させた。元々家賃はあまり高くない、学生用のボロアパートだし、大変な出費ではない。
「ねえ綱海、兵太夫くんにも合鍵ないと不便じゃない?」
「あ、そうだった!渡すの忘れてたぜ。わりーわりー」
綱海は鞄のポケットをごそごそやって、シーサーのキーホルダーがついた鍵を取り出した。わたしがもらったのにも、同じシーサーがついていた。
「ほら、なくすなよ兵太夫!」
「このシーサー、条介にいが選んだの?」
「おう!かわいいだろ?」
「うーん、あんまり」
兵太夫くんは目の高さでシーサーをぶらぶらさせた。口ではあんなこと言ってるけど、満更でもなさそう。わたしも自分の鍵を取り出して、兵太夫くんのものの横に並べた。
「お揃いなんだよ〜」
「お、お揃い…」
「俺のもだぜ」
さらにその横に、綱海の鍵が並んだ。綱海のは他に色々ごちゃごちゃとついていた。でも、3匹のシーサーがちょこんと並んでいるのは確かに可愛い。兵太夫くんは照れ臭そうな顔をしていたけど、多分、嫌じゃないと思う。そうだといいな。
「まあ俺のセンスはおいといて、腹減ったんだよなー、夕飯まだなのか?」
「あ、作る作る」
綱海の言葉に、立ち上がる。今日の晩ごはんはコロッケで、あとは揚げたら完成だ。兵太夫くんは鍵をランドセルにしまってから、広げていた宿題のノートを片付けて、ロフトに運んだ。ロフトの上はとてもきちんと整理されている。兵太夫くんは几帳面みたいだ。
ジュージュー揚げる音と、香ばしい匂いがする。できたものから盛り付けようと思って、お皿を用意しようと振り返ったら、兵太夫くんがお皿を持って立っていた。
「はい、お皿」
「わ、ありがとう兵太夫くん!」
なんていい子なんだろう、兵太夫くん!一緒にコロッケ、サラダ、ご飯を盛り付けて綱海の待つちゃぶ台に運ぶと、綱海にお前らいつの間にか仲良くなったんだなぁと感心された。わたしが笑うと、兵太夫くんもふにゃんと笑ってくれた。