「風丸」
突然名前を呼ばれて振り返ると、いきなり前髪をかきあげられた。思わずうわ、と声が出て、少し体を引く。名前を呼んだ正体を見れば、ふう、と小さくため息なんかついていた。
「何、ハニー」
「よかった、ちゃんと左目があって!」
「は、」
「だって風丸、いつも左目を髪で隠してるから」
別に、隠しているつもりはなかったのだけど。とにかく、ハニーはそれを確認してほっとしたようだったので、よかった、のか?よくわからないけど、まあいいかと自己完結したところで、再びハニーの手が前髪に伸びた。今度は体を引かず、そのままされるがままにしていると、ちょっと目閉じて、と言われた。ハニーに従って目を閉じれば、左目のまぶたに、やわらかい感触。
ゆっくりとその感触が離れた後、オレが少しおどろいてハニーを見ると、ハニーは照れながら笑っていた。
「あのね、みんなが普段見えないところを、わたしは知っているんだっていう、証明」
そんなことを言って、余計に顔を赤くするハニーは、本当に愛おしい。普段、こういう独占欲、のようなものを見せないハニーだから、なおさらだ。オレは目の前でふにゃ、と笑っているハニーを抱き寄せて、くちびるを重ねた。一瞬のことに、ハニーはおどろいた顔をした。
「嬉しいけど、やっぱりオレは、まぶたよりも、こっちのがいいかな」
耳元で言えば、ハニーは真っ赤になったのを隠すように、オレの胸に顔を押しつけた。それから、小さな声で、すき、と聞こえたので、オレもだよ、とつぶやいて頭をなでてやれば、にっこりと笑ったハニーが顔を上げた。