日直、めんどくさいな。そう思いながら、日誌を机に広げる。休み時間に書いておけばよかったのに、友達と話していて忘れていて、帰り支度の最中に机の奥から発見されたのだ。それと睨めっこする私の耳に、聞き慣れた元気な声が響いた。

「なあ!勉強教えて!」

英語の教科書とノートを持って、幼なじみの田島が私の席にやってきた。なんにも答えてないのに、私の前の人の椅子に座ると、ノートを広げた。先に置いてあった日誌は隠されてしまった。

「あれ、野球部っていつも固まって勉強してなかった?」
「いつもはな!今日は西広が用事あるからナシになったんだけど、英語まったくわかんなくてさー。明日までにやんねーと西広怒るんだよ!」
「宿題なのね」

苦笑いして、田島の持ってきたノートを見る。田島のものじゃない綺麗な字で、いくつか英文が書かれていた。

「訳すの?」
「おお!」
「やってみた?」
「一応、でもムリ」

とりあえず解いてみようと思って、私は自分の辞書を取り出す。そんなに難しい文じゃない。

「なあ、お前日直だから残ってたの?」
「うん」
「そういえば中三ん時同じクラスで武蔵野行った横田いんじゃん、あいつ一年でサッカー部スタメンだって!知ってた?」
「へえー」
「あ、その単語政府って意味なのか?」
「うん…」
「ていうかさ、お前睫毛なげぇ」
「…は?」
「唇の形もさー、なんかこう、可愛いよな!」

何を言い出すの、田島。不覚にも顔に熱が集中して、恥ずかしくて顔を上げられない。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、田島は私の顔を覗き込んできた。

「キスしたくなる」

何か言い返す前に、私の唇は塞がれてしまった。田島の顔が近すぎて、うまくピントが合わない。そんな状況にも関わらず、真っ先に考えたのは、今がテスト週間の放課後でよかったということだった。教室にはいつの間にか、私達以外に誰もいなくなっていた。

数秒後、離れたことでようやくまともに見えた田島の顔はニンマリとした笑顔だった。

「やーらけー!思った通り!」
「な、な、なにするの田島!」
「しかも甘い!イチゴ味?」
「それは、昼に飲んだイチゴミルクの…」
「なあ、もっかい…」
「聞け!バカ!」

再び顔を接近させてきた田島を、ノートで叩いた。

「いてぇ!顔面叩くなよ!」
「自業自得!半分くらい解いてあげたから、もう後は自分でやりなさい!」
「えー!お前どうすんの」
「もう帰る」
「タンマタンマ!オレも一緒に帰る!」

教科書とノートをどけて、日誌と鞄を手に取り立ち上がった私を見て、田島も慌ててノート類を鞄に突っ込んだ。

「嫌!一人で帰る!」
「いいじゃん!それにまだハッキリ告白もできてねーし!」
「ま、まだって、いきなり唇だけ見て発情したくせに!」
「違うんだよ!ほんとは昔からいいなって思ってたんだよ!」
「え…?」
「お前のくちび…いってぇ!」
「田島はそこしか見てないの?!」
「ちげーちげー!全部、全部好き!」

そんな取って付けた様に言われたって信じらんない、と思いながらも、また顔が暑くなってしまうのは、心の中では少し期待してるから。それにしてもバカ田島、あんな漫画みたいな状況で私のファーストキスを奪った癖に、それが唐揚げ味だなんて!私のときめきを返してほしい。

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