誕生日は嫌いだ。何故かと言うと、俺と先輩の歳の差がまた開いてしまうからだ。いや、俺の誕生日が来たら、差は縮まるのか。じゃあ、ちょっと修正。先輩の誕生日は嫌いだ。あ、でも、先輩の誕生日は先輩が生まれた日で、それは俺の誕生日なんかよりずっと特別で素晴らしいものだ。うーん、どう言ったらいいものか。とにかく、俺と先輩との間にある一歳という歳の差は、俺にとって、とても大きな壁だった。




先輩は陽花戸中サッカー部のマネージャーだ。一歳年上だけど、とても可愛くて、綺麗で、明るくて、そして優しい。円堂さんを見てキーパーに転向して、毎日遅くまで特訓する俺に、先輩は付き合ってくれた。ずっと励ましてくれた。ちょっと子ども扱いされるのは嫌だったけれど、先輩に悪気はないから仕方ない。先輩もサッカーが大好きな人で、俺に付き合って何度も何度も何度も何度も何度も何度も雷門中の試合、特に円堂さんのキーパー技のシーンをビデオで見て、俺の悪いところを指摘したりしてくれた。俺が途中からキーパーに転向したのに諦めないで頑張れたのは、先輩がいてくれたお陰だ。そう言うと先輩はいつも、立向居が頑張ったからだよ、と言ってくれるけど。俺が頑張れたのは先輩がいたからなのだ。先輩は、ドリンクを作ったりタオルを洗濯したり、そういうマネージャー業のない時間は、ほとんど俺の側についていてくれた。先輩はサッカー部の中でも人気だったから、筑紫先輩なんかには、最近は立向居に独占されてるな、なんて冷やかされたりする。でも、実は、その言葉にすごいドキドキしていたり。俺が、先輩を、独占、



「立向居ー!何ぼーっとしてるの!」
「うわあっ!せっせせ先輩!」
「びっくりしすぎだよ、立向居、可愛いなぁ」

先輩が、楽しそうに笑ってから、ドリンクをくれた。ちょうど先輩のことを考えていたからです、なんてとても言えない。

「立向居はいつも頑張ってるね」
「そんなこと…円堂さんの方がきっともっと、たくさん特訓して…」
「円堂くんじゃなくて。立向居の話をしてるんだよ」

先輩に顔を覗き込まれて、ちょっと緊張して顔を逸らす。

「わたしは、立向居ほど頑張ってる人見たことないよ」
「で、でも、俺が頑張れるのは、先輩がいるからです」
「また、そんなこと言う。…でも、わたしも立向居のお陰で、色々頑張ろうって思えたよ」
「へ?」
「立向居見てたら、わたしも頑張らないと、って気持ちになるんだ。わたし達、お互いがお互いにとって、大切な存在なんだね」

優しい笑顔の先輩を見たら、心臓がバクバクした。俺は対等に見てもらえているのだろうか。

「先輩」
「ん?」

俺の方がきっと、先輩のことを大切に思ってます。先輩に子供みたいに扱われるのが、本当は嫌です。俺のことを年下の後輩じゃなくて、男として見てほしかったんです。先輩が好きです。

「…今日の帰りも、特訓に付き合ってもらえますか?」
「もちろん!」

無理だ。伝えたい言葉はたくさん、頭の中に溢れてくるのに。先輩と後輩としても話せなくなるのは嫌だ。怖い。後輩としてでいいから、先輩を独占していたい。

「…あーあ、立向居がもうちょっと男らしかったら、わたし惚れちゃうのに」
「…へっ?!」
「まあ、いいや。わたしはゆっくり待ってるから」

ドッカーン。頭の中でダイナマイトが爆発したような気分だった。それも一つじゃなくて、たくさん、一気に。先輩は今、なんて?

「それ、どういう…」
「ハニーー!」
「あ、戸田くんが呼んでるから、行くね。ぼーっとしてないで、ちゃんと練習するんだよ!」
「は…はい…」

先輩は戸田キャプテンの元に走って行った。スケジュール表を見て相談しているようだから、練習試合の予定を組んでいるんだろうか。二人の方を見ていたら、俺の視線を感じたのか先輩が顔を上げて、練習練習!と叫んで、手を振った。



先輩、先輩、それどころではないんです。あなたのことで胸が一杯すぎて、破けてしまいそうです。立向居勇気なんて名前の癖に、先輩に想いを伝えることすらできない俺ですが、きっと待っていて下さい。いつか、必ず、伝えます。

ひつじ太陽
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