気が付くと、わたしは自分の部屋で、ベッドに体を預けて寝ていた。夢、だったのか。確かに、自分の体が消える、なんて夢だとしか思えないけれど、わたしの頬には涙の跡があったし、走った後の気だるい感覚があったし、消える直前にバーンくんに肩を掴まれた感触が残っていた。夢なんかではない、と思う。
バーンくん。もう一度会いたくて会いたくて、会ったらたくさん色んな話をしたいと思っていた。せっかく、会えたのに。

「…わたしは、最低だ」

誰もいない空中に向かって、言った。バーンくんはわたしを助けてくれたのだ。気が付いたらいきなりロボットに囲まれていて、警報のような音が鳴って。白い髪の男の子、ガゼルくんがわたしを捕まえようとしたのに、バーンくんは助けてくれた。罰とか話していたし、きっとガゼルくんの方が、正しかったはずなのに。そんなバーンくんに、うそつきと言って、そのまま消えてしまうなんて、わたしは本当に最低だ。バーンくんに謝りたい。謝って、もう一度普通に話をしたい。わたしはこっそりと玄関に靴を取りに行くと、部屋の窓から脱け出して、夜の学校へと駆け出した。


夜の学校は人の気配がなく、しいんと静まりかえっていた。門をよじ登って、校舎裏を目指す。お昼でも日影になっている校舎裏は、夜になって一層暗く、雰囲気があった。でも、怖くはなかった。バーンくんと最初に出会ったこの場所は、わたしにとって、とても大切な場所になっていた。あそこの辺りにバーンくんが現れて、あっちの繁みにリーダー格が吹っ飛ばされて。ここに倒れていたわたしを、バーンくんが助け起こしてくれた。わたしは手をキュッと握った。会いたい、バーンくんに会いたい。思えばバーンくんと会って二ヶ月、宇宙人よりもバーンくんのことばかり考えていた。そりゃあ、バーンくんを宇宙人だと思っていたのもあるけれど、それ以上に、バーンくんという人に、わたしはとても惹かれていたのだ。口はちょっと悪いけれど、バーンくんほど優しくて、頼れて、すてきで、かっこいい人は、他にいないと思った。わたしはバーンくんのことが、

「す、き」

背後でドカーン、と大きな音がした。振り返ると、ひどい砂埃。心臓がばくばくした。煙が晴れる前に、綺麗な赤が飛び出してきた。バーンくんの、鮮やかな、赤い髪。

「バーン、くん」
「はっ、なんだよ。会いたいと思ってやれば、簡単に来れんじゃねーか」

バーンくんが、足元のサッカーボールを持ち上げた。学校の物ではない、黒いサッカーボール。その動作をじっと見つめていたわたしと、バーンくんの目が合った。

「ハニー、まだ泣いてんのか」
「え?あ、本当だ…」

知らない間に、わたしの目からはぼろぼろ涙が溢れていた。慌ててそれを拭っている間に、暖かいものに包まれる。驚いて顔を上げたら、バーンくんの顔がすごく近くにあった。この前なんかよりずっと近い。わたしはバーンくんに抱き締められていた。

「あの、わたし、」
「…悪かった」
「…どうしてバーンくんが謝るの?悪いのは、わたしの方だよ…ごめんなさい」
「ハニーは悪くねぇよ。俺は、ハニーを傷付けちまった」

自信満々のバーンくんが、寂しそうな顔をしていた。わたしは首を横に振る。

「違うよ、バーンくん。バーンくんは初めてわたしのことを馬鹿にしなかった人だったから、わたし本当に嬉しかったの。だからもう一度、バーンくんに会いたかった」
「でも俺は、それを裏切っただろ」
「違う、わたしもさっき気が付いたんだけどね。わたしはバーンくんが宇宙人だから会いたかったんじゃなくて、バーンくんだから会いたかったんだよ」
「は?何が言いたいんだ?」
「だ、だから、わたしは、バーンくんが、好きなの!」

バーンくんが、びっくりした顔になった。

「でも、俺は宇宙人じゃねぇんだぞ?」
「わかってるよ、わたしはバーンくんっていう人が好きなの!」

バーンくんの顔が、彼の髪の毛みたいに赤くなっていった。

「本当に、俺でいいのか?」
「バーンくんが、いいんだよ」
「俺もお前が、す、好きだ」

バーンくんはようやく笑って、もう一度わたしを抱きしめなおした。ぽかぽかする。ただ恥ずかしくてあっついのか、それともバーンくんの体には本当に炎が宿っているのだろうか。バーンくんの中に流れている血は間違いなく赤だろうなぁと、この時わたしはふと思った。ツンツンして見えて、本当は優しく暖かい心を持っている。不器用ではあるけれど、包み込んでくれる。わたしはバーンくんと出会えて、本当によかった。


最果ての宇宙で逢えたら



thanx.nugget
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