この前、ワープドライブを秘伝書で特訓していたら、何故かどこかの学校に落ちた。俺はそこで、宇宙人を信じてるとかいう変な女と会った。エイリア学園は今や日本じゃ有名なのかと思ったが、女は知らないようだった。相当田舎の学校という感じでもなかった気がするが、テレビとか見ねーのか?
とか、考えること二ヶ月。あの女、ハニーと会ってから、気付くとハニーのことを考えている気がする。
「バーン様」
「何だ?ネッパー」
「もう練習再開の時間では?」
ネッパーの言葉に時計を見たら、確かに俺の指示した休憩時間を過ぎていた。慌ててベンチから立ち上がる。
「全員集合しろ!」
「はい!」
「練習メニューだが…」
話し始めたと同時に、うるさい警告音が鳴り響いた。今度はなんだとスピーカーを睨んでいたら、練習場の扉が開き、息を切らしたガゼルが飛び込んで来た。
「バーン!侵入者だ!」
「は?」
「とりあえず来い!」
ガゼルはグラウンドに入って来ると、俺の腕を掴んで引っ張った。
「離せ!自分で歩く!」
「バーン様、我々はどうしたら…?」
「お前達は待機だ」
「テメーが仕切んな、ガゼル!」
呆然としているプロミネンスの奴らをグラウンドに残して、俺とガゼルは走り出した。
「侵入者はどこにいるんだ?」
「エイリア石の部屋に、突然現れたらしい…あそこだ!」
ガゼルが集まっていたロボットを掻き分けて、エイリア石の部屋の扉を開けた。紫の光が溢れる。
「誰?!」
「お前こそ誰だ…」
「ハニー!」
俺はガゼルを押し退けて、部屋に駆け込んだ。エイリア石の部屋で、ロボットに囲まれて床に座り込んでいたのは、紛れもなくハニーだった。
「ば、バーンくん?」
「バーン、侵入者と知り合いか?」
「ああ、ちょっとな」
押し退けられていつも以上にムッとした表情のガゼルが、俺とハニーを交互に見た。ハニーは何が何だかという顔で、俺を見ている。あいつ、どうやって入ったんだ?
「だとしても、エイリア石を見られたら、タダで帰す訳にはいかないな」
ハニーがビクッとして、怯えた目でガゼルを見た。
「じゃあ、どうするんだよ」
「まずは父さんに報告するべきだ」
ガゼルがロボットに、ハニーを連れてついてくるよう指示した。俺は咄嗟に、ロボットを蹴り倒してハニーの腕を掴んだ。
「バーン?!」
「フレイムベール!」
「なっ…」
炎がガゼルを足止めしている間に、俺とハニーはエイリア石の部屋を出た。
「バーンくん、」
「お前、どっから入った?!」
「知らないの!気が付いたらあそこにいて…!」
泣きそうなハニーの顔を見たら、きつく言えなくなった。俺の時も突然だったしな。一般人がいきなりロボットに囲まれたら、びびらない方がすげぇ。
「ごめんね、なんか迷惑かけちゃって…」
「いや、とりあえずここを出るぞ」
「ここはどこ?」
「前に言った富士山の研究所だ」
ハニーの手を引いてひたすら走る。途中からハニーの息が切れてきたが、気にしてやる余裕はなかった。ようやく出口が見えてきて、少しペースを落とした時、突然脇道からガゼルが現れた。持っていたボールを蹴り上げると、ボールに氷が集まる。
「ノーザンインパクト!」
「っぶねぇ!」
ギリギリでハニーを突き飛ばし、俺も体を反らして避けた。急いでハニーの方を確認すると、口パクでありがとう、と言われた。
「ふざけるなバーン!エイリア石を見られたんだぞ!」
「うるせぇよ!こいつは何にもわかってねぇんだ!」
「何故そう言い切れる!取り返しのつかない事態になったらどうする?バーンは父さんを裏切るのか?」
「いいから退けよ!」
イラついてきた。ハニーが、エイリア石が何かを理解してないことは確かだ。間違ってもスパイではない。そんなことをする奴じゃないんだ。ガゼルにそれがわからないのがイライラする。
「やはり力ずくしか、」
「イグナイトスティール!」
突然、ガゼルに炎が襲いかかった。その正体は、ボンバだった。ハニーの方を見ると、ボニトナに助け起こされていた。
「お前ら、なんでここにいるんだ?」
「最近バーン様の様子がおかしいと思ったら、恋をしていたんですね!」
「俺達のキャプテンはバーン様だけです。父さんから罰を受けるなら、俺達も一緒に」
「バーン様、早く行って下さい!」
ボニトナに立たされた、ぽかんとして状況を飲み込めていないハニーの手を掴むと、俺は再び走り出した。
「い、いいの?罰って何?」
「気にすんな、とりあえず走れ!」
研究所から出て、適当なところまで走る。樹海と言うだけあって、毎日通っていても迷う程の場所。ガゼルも簡単には見つけられないはずだ。
「怪我してねぇか」
「う、うん、ありがとう…ごめんね」
「何がだよ」
「わたしのせいで、バーンくん、大変なことになったみたい」
「気にすんなっつってんだろ」
ハニーはまたありがとうと言って笑うと、座り込んで呼吸を整えた。
「あのね、わたしどうしても、もう一回バーンくんに会いたくて。毎日バーンくんのことを考えてたら、会えた」
にこっと笑顔を向けられて、顔が暑くなるのを感じた。
「でも、本当にごめんね。あの綺麗な紫の石は、大切なものだったの?」
「いや、あれはエイリア石っつって、宇宙人みてーな力が出せる…」
俺の話を聞きながら、ハニーの表情が急に固まった。
「…どうした?」
「宇宙人みたい、って、バーンくんは宇宙人でしょ?」
そう言われてから、ようやく自分が言ったことに気が付いた。
「あ、あー…」
「…宇宙人って、うそ、なの?」
じっと見つめられたら、適当にごまかすこともできなかった。俺は視線を逸らしたまま、頷く。
「バーンくん…」
「別に、ハニーをからかった訳じゃねぇんだ!」
「う…うそ、つき」
ハニーは泣いていて、俺は焦った。しかし、更に俺を焦らせることが起きた。ハニーの体が、消え始めたのだ。最初は足から、胴体、手。顔を押さえていた手が消えて、ようやく自分の体の異変に気が付いたハニーは、小さい悲鳴を上げた。俺は咄嗟にハニーの肩を掴んだ。
「ハニー!」
「バーンく」
ハニーの体はどんどん見えなくなって、あっという間に消えてしまった。手に残るハニーの体温が、急に不自然に感じた。夢、ではないはずだ。俺は近くの木を蹴っ飛ばした。俺は馬鹿だ。ハニーを守ったつもりが、結局は一番傷付けたんだ。ハニーと初めて会った日に、ハニーを虐めていた奴らよりも。
流れ星は嘘吐き
研究所に戻ると、入り口でガゼルがプロミネンスのメンバーに囲まれていた。俺が戻ったことに気付くと、ガゼルがいつも以上の眼力で睨んできた。プロミネンスの奴らに散々、バーン様の恋の邪魔をするな、と脅されたという。主にボニトナとレアン。それを聞いた俺は、自嘲気味に笑った。確かに恋だったかもしれないが、それなら見事な失恋だ。俺の言葉を聞いたガゼルは、急にばつの悪そうな顔をした。ガゼルのせいじゃねぇ、俺が悪かったんだ。だけど、誤解させといた方が都合良さげだったから、急に覇気を失ったガゼルを残して、俺達は練習場に戻った。やることは一つだ。ワープドライブの、特訓。もう一回会って、ちゃんと話さないと気が済まねぇ。せめて、謝るくらいは。
thanx.nugget