わたしは小さい頃、どうしてだかわからないけど、自分が宇宙人だと信じていた。中学生になった今は、さすがに自分が宇宙人とは思っていないけど、宇宙人の存在は当然のように信じている。そして、宇宙人と交信ができると思っている。しかしこんな考えを持ったわたしは、昔からよくいじめっこ達のターゲットになっていた。宇宙人なんているわけないだろう、と言われたら、つい反論してしまう。だってこの広い宇宙、地球意外にも人がいるって考える方が絶対自然だ。誰が何て言おうと、わたしは信じてる。

「宇宙人はいるんだから!」
「いるわけねーんだよ!」
「映画の見すぎだ、宇宙人のハニー!」

今日もまたわたしはいじめられていた。でも、いつも場所は教室なのに、今日は校舎裏。積めよってくるいじめっこの男子に、身の危険を感じたけれど、三対一で逃げ場はない。

「お前さぁ、ほんとウゼーんだよ。中学にもなって宇宙人とか」

リーダー格の男子が、わたしのお腹を蹴った。うえっとなってうずくまったわたしを見て、笑う三人。

「あ、いーもん見っけ」

そう言ったのは、リーダー格の右にいる男子。その辺に転がっていたサッカーボールを持ってきて、わたし向けて、足を振り上げた。反射的に目を閉じた時、ドカーンとすごい音がした。直後に、強い風を浴びる。恐る恐る目を開くと、ひどい砂埃。さっきの風は爆風らしい。

「な、なんだ?!」

サッカーボールを取り落としていた男子が、情けない声で言って、砂埃の中に目を凝らす。やがて砂埃が晴れて、そこにいたのは、真っ赤な髪の男の子だった。赤と白のユニフォームみたいな服を着ている。目が黄色だ、外国人?

「…ここはどこだ?」
「お、お前誰だ!」
「あん?テメーこそ誰だよ」

赤い髪の男の子の鋭い目付きに、リーダー格の男子が怯んで黙った。赤い髪の男の子はそのまま三人を睨み付けて、最後にわたしを見た。うずくまるわたしを見て、なんとなく状況を理解したのか、男の子はニヤリと笑った。

「女一人に男三人かよ。お前らかっこわりーな」
「なっ…黙れよ!」

リーダー格がサッカーボールを拾い上げ、男の子に向かって思いきり蹴った。しかし男の子はそれを軽々とトラップして、そのままリフティングした。

「サッカーは女いじめる為にあるんじゃねぇぞ、ザコが」

そう言って男の子はボールを蹴り上げると、高く高くジャンプした。人間とは思えない高さ。しかも、目の錯覚か、男の子が炎を纏っているように見えた。

「アトミックフレア!」

男の子が蹴ったボールは、やっぱり炎を纏っていた。ボールはリーダー格に直撃して、リーダー格は吹っ飛び、繁みに突っ込んだ。残った二人はそれを見てガクガク震えて、笑っている赤い男の子を見た。

「お、お前なんなんだよ…なんで炎なんか出るんだよ…」
「俺は宇宙人だからな」

赤い男の子が一歩こっちに近付くと、二人はリーダー格を助けて、転がるように逃げて行った。うずくまったままのわたしと、三人の走って行った方を見ている男の子だけが残った。

「あ、あの」

わたしが声をかけると、男の子はこっちを向いた。綺麗な黄色の目、目をひく真っ赤な髪、変わった髪型、そしてさっきの炎。

「宇宙人って、本当?」

わたしの質問に、男の子は一瞬ぽかんとした顔をしてから、ニイッと笑った。

「おう、エイリア星から来た、宇宙人のバーンだ」
「す、すごい、本物の宇宙人…!やっぱりいたんだ!」
「お前変な女だな、大丈夫かよ」

バーンくんは近寄ってきて、手を差し出してくれた。わたしはそれに掴まって、立ち上がる。

「わたし、ずっと宇宙人はいるって信じてたの。でも、それでよくいじめられてて…」
「そんなん周りに合わせときゃいいのによ。まあ、俺はそういうの、好きだけどな」

バーンくんの言葉に、ちょっと顔が熱くなる。それを見て、またバーンくんは笑った。

「お前、名前は?」
「あ、ハニー!」
「ハニーか。じゃあハニー、いいこと教えてやるよ」

バーンくんが顔をずいっと近付けてくる。また顔が熱くなった。

「宇宙人のアジトは富士山にあんだぜ」

わたしは反射的に、校舎の向こう側にうっすら見える富士山を見た。あんなに近くに、宇宙人がいたなんて!バーンくんはサッカーボールを拾い上げて、自分の足元に置いた。

「じゃあな、ハニー」
「え、もう行っちゃうの?」
「おう。サッカーの練習の途中だったからな」
「宇宙人もサッカーをするの?」
「宇宙人がサッカーしたら悪いかよ」
「全然!宇宙人のことたくさん知れて楽しかったよ、ありがとうバーンくん」

わたしがにっこりと笑うと、バーンくんはちょっと目を逸らした。

「また会える?」
「どうだかな」
「会えるといいなぁ」
「…いつか気が向いたら、会いにきてやるよ」
「本当?!じゃあその時は、UFOで来てね!」
「はっ、来てやるだけでありがてぇと思えよな」

バーンくんは馬鹿にしたように笑ってから、ボールを蹴り出した。彼が片手を前に突き出すと、なにもない場所にいきなり、真っ暗な空間が現れる。わたしがびっくりしていると、バーンくんはもう一度わたしを見て、じゃあな、と言って、暗闇の中に消えた。一瞬で暗闇は口を閉じて、バーンくんの姿は見えなくなった。わたし一人が、いつも通りの校舎裏に残された。でも、まだ心臓がドキドキしている。わたしは、ついに、宇宙人と会えたのだ!でもこのドキドキは、本当にそれだけの理由なのだろうか。わたしは、さっきバーンくんと繋いでいた手を見つめた。バーンくんの手は暖かかった。生きている、血の通っている温度。宇宙人にはやっぱり、緑の血とか流れているんだろうか。ああ、聞けばよかった。早くまたバーンくんに会いたいなぁ。会えたらもっともっと色んなことを聞きたい。宇宙人のこともだけど、バーンくんのことが知りたい。例えば、すきな食べ物とか。次の休みの日には、富士山に行ってみようかなぁなんて思ったわたしだった。


流れ星の残像


これは余談なのだけど。バーンくんの炎のキックを喰らってから、あのいじめっこの三人も、宇宙人を信じるようになった。そして、結構クラスの中心であった彼らがそんなことを言い出したせいか、わたしはいじめられなくなった。でも、本当にあの時のバーンくんは、人間離れしていたのだ。実際に見たら、宇宙人を信じてしまうのも頷けると思う。特に、炎のキックを実際に受けたリーダー格は、自分がどんな恐ろしい目にあったのかを説明するのに必死だった。何を言ったって、みんな信じないのだ。リーダー格は、わたしの気持ちがわかったに違いない。逆にわたしは、宇宙人のことを話すことが減った。本当に宇宙人はいるんだと思ったら、今度はバーンくんとの出会いをみんなに話してしまう方が、もったいないことのように思えてきてしまったのだ。バーンくんにはきっとまた会える。そんな気がする。次会えたら、わたしも宇宙に連れて行ってくれないかなぁ。



thanx.nugget
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