「オイ!」

ある日突然、わたし達イプシロンの練習場に、プロミネンスのバーン様がやって来た。バーン様と言えば、話したことはないけれど、血気盛んで怖いと噂の方だ。慌ててデザーム様が練習を中止して、バーン様の元に走った。マキュアやメトロンは気になるのか、ちらちら二人の方に視線を送っていたけど、わたしは怖くて、なるべく離れていた。バーン様は普通に喋っていても、声が大きくて怒っているみたいだ。次の瞬間、そのバーン様の口から出た言葉に、わたしは思わずゴールネットに隠れた。

「イプシロンにハニーってヤツいるだろ」

みんなの視線がわたしに向いた。隠れていたって、ネットなのだから当然丸見えだ。バーン様はみんなの視線を辿って、わたしのことを見た。目が合ってしまって、びくっとする。

「ハニー、こっちに来い」

デザーム様もバーン様がわたしを訪ねて来た理由がわからなかったみたいだけど、とりあえずわたしを呼んだ。きょろきょろと助けを求めて周りを見たけど、ゼルに「早く行け」とゴールから追い出されてしまった。それでもまだ躊躇っていたら、バーン様がイライラしたような口調で言った。

「さっさとしろ」
「は、はい!」

わたしは猛ダッシュでバーン様の元まで走った。緊張で心臓がバクバクしてたせいで、そのちょっとの距離で息が上がってしまった。しかしバーン様がわたしを睨むように見るので、息が整う暇がない。わたしはマスターランクの人に怒られるようなことをしてしまったか、頭をフル回転して考えたけど、思い当たらなかった。あ、でも、そういえばこの前、廊下でバーン様やプロミネンスのメンバーの数人と、擦れ違ったような記憶がある。あの時、わたしが何かやらかしたのかもしれない。とにかく、わたしはビクビクして、バーン様の方を見ることすらできずにいた。
バーン様がわたしを睨んでいる間、沈黙が続いていた。さすがに気まずいと思ったのか、デザーム様がバーン様に声をかけると、バーン様はようやくわたしからデザーム様へと視線を移した。しかしその後バーン様は、とんでもないことを言い出した。

「ハニーは今日からプロミネンスに入る」

周りで聞いていたみんなとデザーム様の驚いた声が重なった。わたしはと言えば、声も出せずにバーン様を見ていた。イプシロンでもベンチのことが多いわたしが、マスターランクのプロミネンスに?ありえないありえない、大体お父様からそんな話は一言も聞いていない。しかしそんなわたしの考えを見透かしたように、バーン様は言う。

「父さんの許可は取った」

許可を取った、ってことは、お父様が言ったことではなくて、バーン様が頼んだということだろうか。ますます意味がわからない。ジェネシスの座を狙っているプロミネンスにわたしみたいなのが入ったら、負けてしまう。バーン様は意識があっちこっちしているわたしに行くぞと一声かけて、歩き出した。ようやく意識が戻ってきて、泣きそうな顔でデザーム様を見たら、デザーム様も訳がわからないという顔でわたしを見ていた。イプシロンのみんなは、まだぽかんとしている。

「デザーム様、どうしましょう…」
「…とりあえず、行くべきだろう」

デザーム様は練習場の外を指差した。そこにはさっきよりイライラした雰囲気の、バーン様。わたしは小さく悲鳴をあげた後、デザーム様に頭を下げてからバーン様を追った。
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