(!)死ネタわたしは殺し屋です
キャッチフレーズは
どんな依頼も請け負います
どんな依頼も成功させます
実際わたしは今まで、仕事で失敗したことがありません。成功確率、100%!
でも血も涙もない冷酷な女なんて、思わないでね。これでも、好きな人はいるんです。
同じ仕事をしているイルミ=ゾルディック。殺し屋としての格は天と地ほどの差があるけれど、ひょんなことから出会ったわたし達は、たまにご飯を食べたりするような仲なんです。
そんなわたしの元に、びっくりする依頼が飛び込んで来たのは、数日前のこと。
「あなたが、どんな依頼も請け負うっていう殺し屋?」
「ええ、ええ、そうです。ご依頼ですか?」
「そうよ。報酬はいくらでも払うわ。愛する旦那を殺した憎い男を殺してちょうだい!」
「落ち着いて下さい、マダム。必ず殺して差し上げましょう。その男の名前は?」
「殺し屋のイルミ=ゾルディックという男よ」
依頼人は世間知らずな、大富豪の奥さま。ゾルディック家の有名さも知らないようでした。断る暇さえなく帰ってしまった依頼人に、わたしは途方に暮れました。
よりによって、ゾルディック家。
そしてよりによって、イルミ。
わたしに殺せるはずがありません。実力的な問題はもちろんですが、もし仮にわたしがイルミを殺せる状況になったとしても、わたしは殺せないでしょう。
断ろうと思い電話をかけましたが、依頼人は聞く耳を持っていませんでした。キャッチフレーズ、あんなことを書かなければよかった、と初めて後悔しました。しかし仕方ありません。ゾルディック家のように名が知られていないわたしは、依頼を断るような余裕が、経済的になかったのです。
そうして数日経った今日は、なんとイルミとお食事の日。普段なら楽しみで仕方ない日ですが、今日はひたすら気が思いです。
いつものように少し頑張ってオシャレをして待ち合わせの場所に行くと、イルミは先に待っていました。ああ、今日もかっこいい!
「イルミ」
名前を呼べば、イルミはぱっと顔を上げました。そしてわたしが近付くのを待ってから、行こうか、と歩き出しました。
「久しぶりだね、仕事どう?」
「う、うん、頑張ってるわ」
「?…調子悪いの?」
「そんなこと、ない、わよ!どうして?」
「いつももっと自信満々で、順調って言うじゃん」
一歩遅れて歩くわたしを振り返るイルミ。さりげなく気遣ってくれる、そういうところが大好きなんです。
「悩みあるの?」
「な、ないわよ」
「嘘でしょ。今日ハニー、目合わせようとしないし」
「そんなこと、」
「相談してくれたらいいのに。オレそんなに頼りない?」
「違うわよ、違うんだけど、あなたには話せないの」
イルミはますます不審そうな顔をしました。
「ねえ、もしかしてハニー、次のターゲット、オレ?」
わたしは思わず、目を真ん丸にして、イルミを見ました。今日初めて、イルミと目が合いました。イルミはいつもと変わらず、感情のない目をしていました。
「当たりだ」
「なんで…」
「ハニーのことだから」
いつの間にか、わたし達は立ち止まっていました。いつも店に行くときに通る、あまり人気のない、細い道です。
「言ってくれたらよかったのに」
「え…?」
次の瞬間、わたしは、呆然としました。
イルミがわたしの手にナイフを握らせ、その上からイルミがわたしの手を握り、そのままイルミの左胸へ、突き刺して、いたのです。
それは正に一瞬の内に行われたことで、わたしはナイフがイルミの胸にぐさりと刺さっているのを見るまで、状況が理解できませんでした。
「な、なんで、なんてことを…!」
イルミにぎゅっと握られたままのわたしの手が、ぶるぶると震えていました。目からは涙が溢れるのを感じました。イルミはナイフが刺さっているというのに、無表情のままでした。
「オレハニーのために死ねるなら幸せだよ」
「わたしは、わたしのためにイルミが死んだって幸せじゃないわ!」
「…ごめん、幸せにしてあげられなくて」
その言葉は、何かとても大きな意味を持っているんじゃないかと、ふとわたしは思いました。そして気がつくと、ナイフを投げ捨ててイルミに抱きついていました。
「好きだったのよ、イルミが大好きだったの」
「知ってたよ、それに、オレも好きだったよ」
「うそ…じゃあどうして、」
「本当だよ。オレが死んだら、ハニーは生きて行けるだろ」
「イルミが死んだら生きてる意味ないの」
そっと上半身だけ離れてイルミの顔を見れば、珍しく少しだけ悲しそうな顔をしていました。
「でもオレはハニーには生きててほしいよ」
「イルミが死ななくても、わたしが生きていける方法ってきっとあるわ」
「貧乏なくせに。それにもう、おそ」
途中で言葉が途切れ、ぐらっとイルミの体がわたしの方に倒れてきました。わたしは絶望しました。大好きなイルミがたった今この瞬間に、わたしのために、死ん、だ
「うそでしょう?」
無感情な瞳は光を失っていて、開いたままの口はもう、言葉を発することはないのです。わたしは血が止まったイルミの左胸に顔を押し付けて、ひたすら泣きました。
初めてひとを殺めた気がしたthanx.joy