結果から言うと、私達水仙チームは、優勝した。キレた後の立花先輩は本当に、相当な怖さだった。まずは、どこからそんなに、と思うほどの量の宝禄火矢を、惜しげもなくはっちゃんと七松先輩に投げつけ、七松先輩達のチームを完全にノックアウト。三つ目のチェックポイントも一位で通過し、次のチームを待ち伏せ。そして二位通過した潮江先輩のツバキチームも瞬殺し、ぶっちきりのスピードで優勝したのだった。そのお陰で、毎年夕方までかかっていたオリエンテーリングは、お昼には終了した。ちなみに優勝したチームに贈られる景品は、学園長のブロマイドと新しい足袋だった。


そして、オリエンテーリングの日から変わったこと。
まず、私は立花先輩やタカ丸さんや喜三太と仲良くなった。左近とも、去年はあまり仲良くならなかったのだけど、今年はだいぶ打ち解けた感じだ。しかし、私とはっちゃんが一緒にいるときに立花先輩に会うと、立花先輩の顔が怖くて直視できない。
それからもう一つ、七松先輩を避けるようになったことだ。オリエンテーリングでは結局、私達の出る幕なく立花先輩が全て終わらせたので、話すことはなかった。あれ以来まだ委員会活動はないし、学園は広いので、会わないようにするのはそう難しくない。

しかし、今日は無理なのだ。今日は委員会がある。このあいだのオリエンテーリングの成果や、来年度に向けての反省点など、いろいろまとめなければいけないので、五年生の私が欠席する訳にはいかない。この際もう、なにも覚えていないことにしてしまおう。いつも通り挨拶すれば、七松先輩だっていつも通りのはずだ。そう心に決めてしまえば、委員会活動に使っている教室に向かう足も、少しは軽くなった。でも教室が見えてきたところで、扉の前に七松と金吾がいるのが見えて、一瞬立ち止まる。気配に気付いたのか、七松先輩が振り向いた。

「おお、ハニー!」
「こんにちは、七松先輩に金吾」
「ハニー先輩、こんにちは!」

ようし、普通に挨拶できた!金吾もいるし大丈夫だ、と思って近付けば、七松先輩は金吾に先に教室に入っているように言って、こっちに寄ってきた。え、え、と私が動揺していたら七松先輩はにっこり笑って私の腕を掴んだ。

「委員会の前にちょっといいか?」
「え、あ、ええと…」
「あそこの教室は人気がなさそうだな」

七松先輩は私の返事も聞かず、勝手に教室に入っていった。腕を掴まれている私も、引っ張られるようにそこに入る。

「あの、七松先輩」
「ハニー、この前オリエンテーリングで私が言ったこと覚えてるか?」

早くも話の核心に触れた七松先輩。逃れることは、できなそうだ。私が頷くと、七松先輩はホッとしたような顔をした。

「あのタイミングでは信じてもらえなくても仕方ないが、あれは本気で言ったことなんだよ。私はハニーが好きだ!」

この前のオリエンテーリングの時みたいに、別人みたいに色っぽい声ではなくて、いつもの七松先輩だった。

「あ、別に返事を聞きたくて言ったんじゃないから、無理に答えなくてもいいんだぞ?」

七松先輩はそう付け足したけれど、やっぱり意識してしまうし、頭は自然に七松先輩のことを考えてしまう。そろそろ委員会を始めるか、と先輩に促されて、みんなの待つ教室に戻った後も、頭では色々なことがぐるぐるして、集中できなかった。

「ハニー先輩どうかしたんですか?」

ぼけっとしていたら、滝に心配されてしまった。

「ねぇ滝、滝は好きな人いるの?」
「は?!な、何を言うんです突然!いませんよ」
「そうだよねぇ、滝は自分が一番好きだもんねぇ」

滝は否定しなかった。まったく、正直な子だ。はぁとため息をついて、手元にある書類に視線を戻す。滝がまた話し始めたので、視線は向けず、耳だけ傾ける。

「ハニー先輩の想い人なら多分わかりますよ」
「は?」
「先輩は、七松先輩が好きでしょう?」

思わず筆を取り落としてしまった。紙にべちゃっと墨がつく。

「その反応からして、やはり図星ですね。まぁこの私、滝夜叉丸の観察力を持ってしたら当然…」
「ねぇ滝、なんでそう思ったの?」
「…だってハニー先輩は七松先輩がいたら、いつも目で追ってるじゃないですか」
「え、追ってない!」
「追ってますよ!自分で気付いてないんですか?それにハニー先輩は七松先輩と話してる時が一番楽しそうな顔をしてますよ」

自分でも気付かないうちに、そんなことをしていたなんて。今滝が言ったことが本当なら、私の行動はまるで恋する乙女のようだ。よく考えたら、確かに私は七松先輩のことをよく考えていたし、人混みの中から先輩を見つけ出すのが得意だった、気がする。

「でもどうして突然そんな話を?」
「なんでもないよ、たまには後輩とそういう話をするのも悪くないかなと思ったの。早く終わらせちゃいましょ」
「先輩がそんなこと言うの珍しいですね。用事でもあるんですか?」
「そう、今大事な用事ができたの」
「今?」
「いいから手を動かしなさい」


私が言うと、滝はちらちらとこっちを見ながらも、作業に戻った。委員会が終わったら今度は私が七松先輩を引っ張って連れだそう。無理に返事をしなくてもいいと言われたけど、気持ちに気付いたら、言わないでいる方がモヤモヤする。七松先輩の反応を考え、私はドキドキしながら作業を進めた。



体育の日だって立派に恋のきっかけになるのです





「七松先輩!夕食の前に少しいいですか?」
「ん?なんだ?」

委員会が終わった後、皆が出ていく中、七松先輩を呼び止める。全員が出ていったのを見て、私は覚悟を決めた。

「私も七松先輩が好きです」
「…、ハニーっ!」

途端に抱き締められて、あまりの苦しさに、口から呻き声が漏れた。しかし七松先輩には聞こえなかったのか、嬉しいなぁとか言いながら、ますますきつく抱き締めてくる。

「私は今とても幸せだ!ハニーが好きでよかった」
「あ、ありがとうございます…それより、苦し…」
「ああ、すまない!」

ぱっと解放されて、ようやく十分に息を吸い込む。呼吸を整えていると、七松先輩は私を見つめて言った。

「今夜くのたま長屋に忍び込んでもいいか?」
「は?!な、なんでですか!」
「だって想い合っている男女は夜の営みをするものだろう!」
「順序というものがあるんです、七松先輩」
「小平太でいいよ」
「…私の話、聞いてますか?」

にこにこと楽しそうな顔で、なんだっけ?と言われたら、怒るに怒れない。前途に不安を感じつつも、なんだか私も幸せなのかもしれないなぁ、なんて思ったのだった。


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