門を出たところに、もう人の気配はなかった。あまり時間はなかったので、たくさん落とし穴を掘ることはできなかったはずだけど、十分注意するように、と立花先輩が言った。

「ええと、最初に向かう場所は…」
「三之助、そっちじゃないよ、おいで」

さっそく道を逸れようとした三之助の手を掴んで、引き戻す。三之助はこのまま捕まえていた方が良さそうだ。地図を持った立花先輩が方角を確認してから、走り出した。

「走るんですかぁ〜」

喜三太が情けない声を出した。

「当然だ。次のチームと鉢合わせたら厄介だ」
「でも立花先輩、早いです!」

今度は左近が言った。一、二年生が六年生のスピードについていくのは、確かにかなり大変だ。立花先輩はやれやれという顔をすると、戻って来て喜三太と左近の手を掴んだ。立花先輩に引っ張られ、二人はぐん、とスピードが増す。喜三太は足がついていかず、結局は立花先輩に抱えられていた。

「よし、私達もちゃんとついていかなくちゃ」「はい!」
「ま、待ってぇ〜」

立花先輩達と同じように手を繋いだ状態の私と三之助が走り出すと、後ろからタカ丸さんがバタバタと追ってきた。しまった、タカ丸さんを忘れてた。当然タカ丸さんだって、立花先輩のスピードにはついていけないのだ。

「タカ丸さん、急いで急いで!」
「い、急いでるんだけど…」

苦笑いのタカ丸さん。すでに息が上がりかけているタカ丸さんの元に戻ると、その手を掴んだ。立花先輩ほど引っ張る力はないけど、タカ丸さんだって喜三太より足は早いはずだ。三之助と二人でタカ丸さんをはさみ、手を繋ぐ。

「足はしっかり動かして下さいね」
「ほえ…?うわっ」

突然の加速にタカ丸さんの驚く声が聞こえたけど、立花先輩達を見失っては大変だ。申し訳ないけど、安全に後続組を見張れる場所までは、頑張って走ってもらわないと。



私達三人が立花先輩達に追いついたのは、立花先輩達が止まってからだった。立花先輩は隠れやすく逃げやすい、待ち伏せにちょうどいい場所を見付けていた。

「先輩、アサガオチームは?」
「もう少し先へ進んだようだ。向こうに落とし穴があった」

さすが先輩は、すでに周りの状況も確かめたらしい。

「時間的には、もう大体のチームは出発している頃でしょうか」
「そうだね」
「隠れて待つか。斉藤、早く繁みに入れ」

へろへろで息を整えていたタカ丸さんが、慌てて繁みに入った。同じくへろへろの左近は、繁みの奥で休んでいた。三之助は体育委員として鍛えられているので、そんなに息は上がっていない。喜三太も抱えられていただけなので、当然疲れていなかった。

「喜三太」
「はにゃ?」
「三番目のチームは覚えているか?」
「ええと…確かきり丸のチームだと思います」
「きり丸っていえば、滝が一緒にいたはずだから、バラチームね」
「バラ…留三郎のチームだな。その次はわかるか?」
「ううーん…ごめんなさい、覚えてないです」
「いや、上出来だ。駒はバラチームから奪おう」

立花先輩がニヤリと笑った。

「宝禄火矢で奇襲攻撃を仕掛ける。斉藤、お前は喜三太と左近を連れて少し離れて休んでいろ」
「え、いいの?」
「ああ。駒を奪ったら、長次達の待ち伏せをかわす為に少し面倒な道を通ってチェックポイントを目指す。早く体力を回復してもらわねば困る」
「はーい」

タカ丸さんは二人を連れて、奥に隠れた。立花先輩は喜三太から離れたかったに違いない。三人が離れた後、立花先輩と三之助と私は顔を寄せた。

「私が宝禄火矢を投げたら、煙に乗じて留三郎以外を押さえろ。恐らく駒は留三郎が持っているだろうが、あいつはあれで体術が得意だから、私がやる。一、二年はいいから、上級生に加勢をさせるな」
「わかりました」
「怪我をするなよ」

その会話を最後に、私達は頭巾で口を覆い、繁みに潜んだ。地面に耳をつけると、足音が聞こえる。程なくして食満先輩達が見えるところまで来た。かなり警戒はしているが、私達には気が付いていない。五年生は、あまり話したことのない、ろ組の生徒だ。私は三之助に滝を任せ、五年を押さえることにした。

食満先輩達が私達の近くに差し掛かったとき、立花先輩が宝禄火矢を投げた。爆発に一瞬ひるんだ食満先輩に向かって、風のような速さで立花先輩が走った。それを追うように繁みを飛び出した。狙いをつけていた五年生の襟元を掴んで、背負い投げする。地面に叩き付けた後、素早く縄で手足を縛ったら、もう動くことはできない。次は三年生か、と思い顔を上げると、三之助が倒れ込んで来た。

「三之助?!」
「あ、先輩すみません!滝夜叉丸先輩に投げられてしまって」

三之助の言葉に、反射的に立花先輩のいる方を見たが、人影は二つ、加勢が来た様子はない。三之助に三年生を任せると、私は滝を探した。だいぶ煙が晴れて、ようやく滝を見つけ捕まえたとき、立花先輩が叫んだ。

「退け!駒は奪った!」

咄嗟に捕まえていた滝の両肩を突き飛ばし、私は繁みに駆け込んだ。後から三之助もやって来たのを確認して、立花先輩は慌てるバラチームに、二発目の宝禄火矢をお見舞いした。

「急いでここを離れるぞ!斉藤、左近、走れるか」
「はっはい!」

立花先輩の言葉に、奥にいた三人が立ち上がった。そのまま私達は、森の中へ入って行く。

「でも立花くん、バラチームはもう失格じゃないの?」
「まだわからん」

立花先輩の言葉に、よくわからないという顔をするタカ丸さんと、喜三太。立花先輩は何も言わないので、私が説明を引き継いだ。

「チェックポイントに着くまでに奪いかえされたら、バラチームもセーフってことよ」
「あ、そっか!山田先生は奪いかえすのがルール違反とは言ってないし…」
「チェックポイントに着くまでは、誰も記録してないもんね〜」

喜三太とタカ丸さんは納得したようだった。と、いきなり立花先輩が腕を広げ、私達を止めた。黙るように指示され、自然と緊張した雰囲気が漂う。

「微かに声がしたな…どこかがアサガオチームと衝突したようだ」
「じゃあ今の内に森を抜けたら、一つ目のチェックポイントに一番乗りですね」
「ああ、急ぐぞ。ただしあまり音を立てるな」
「無理だよぉ〜」

二年のわりに冷静な左近に比べ、タカ丸さんはまたふにゃふにゃ言い出した。が、立花先輩に睨まれて大人しくなる。私は苦笑いしながら再びタカ丸さんの手をとった。三之助も私と繋いでいた手を離し、タカ丸さんの反対側に回った。

「タカ丸さん、足音を立てない走り方は…」

立花先輩達が早くも走り去っていく気配を感じながら、私達は足音を立てない走り方講座を続けた。こういう時七松先輩なら、例えタカ丸さんが嫌がっても、担ぎ上げていくんだろうなぁと思ったら、私は初めて七松先輩のことがちょっと恋しくなった。


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