「あれ、七松先輩、滝どこ行ったんですか?」
「今日の大会の準備に行ってるぞ!」
「…今日の大会って?」
「なんだ忘れたのか?今日は体育の日じゃないか」
「あー!」




体育の日のはなし




最初は学園長の思い付きだった、体育の日のオリエンテーリング。今では何故かそれが、毎年恒例の行事となってしまっている。準備は当然私達、体育委員会が行っている。

「今年はどんな組み合わせになるだろうな!」
「どうでしょうかね」

七松先輩の言った組み合わせというのは、オリエンテーリングの組分けの話だ。一年生から六年生までの6人がランダムで組分けされるこのオリエンテーリングは、体育の日の行事と銘打っている癖に、実際は二日間に及ぶ。去年私は、不運で有名な保健委員が3人もいるチームに入ってしまい、散々な結果になってしまった。これは私もかなりの不運だったけれど、組分けの大切さが痛いほどわかった。ちなみに組分けは、学園長がくじで決めているという話である。

「ハニーと一緒だといいなぁ!」
「七松先輩は去年、優勝のチームでしたっけ?」
「ああ!」
「先輩達!」

笑顔の七松先輩の肩越しに、にょきっと滝が現れた。疲れ顔の三之助とシロと金吾も一緒だ。

「何をこんなところで仲良く話しているんです!少しは準備を手伝って下さい!」
「ああごめん、オリエンテーリングがあることも忘れてて…何かすることある?」
「もう終わりましたよ」

ぶすっとする滝。準備と言ってもこのオリエンテーリング、六年生も参加するのでそれぞれのチームがそれぞれで罠を仕掛けるため、体育委員会の仕事は救護テントやチェックポイントの設置くらいだ。まあ大変なことに変わりはないんだけど。

「ありがとうね。それにしても随分早く準備が終わったのね、さすが優秀な忍たまだわ」

シロと金吾の頭を撫でながら言うと、滝は満更でもない顔をした。ほんとに単純でかわいいなぁと、私は内心苦笑する。と、そこに学級委員長委員会の三郎がやって来た。腕にはお馴染みの、審判の腕章。

「こんなとこにいたのか。もうすぐ組分けの発表だから、グラウンドに集合だ」
「こんなとこにって、こっちはオリエンテーリングの準備をしてたんだからね!」
「ああ、そうか、ハニーは体育委員会か」
「ハニー先輩、準備をしてたのは私達で、先輩達は何もしてません!」

それに先輩達が手伝ってくれていたらもう少し早く終わったのに、とブツブツ言う滝の言葉を聞き流しながら、私達はグラウンドに向かった。


山田先生と野村先生からオリエンテーリングの簡単な説明があり、その後学園長から組分けが発表された。同じチームに三之助がいるようで、ホッとしたような、ため息をつきたいような気分になる。仲のいい後輩がいるのは嬉しいけど、三之助の方向オンチは厄介だ。全部の組分けを読み上げた学園長は、チームごとで集まるよう指示した。途中で見つけた三之助と一緒に他の人を探していると、一番わかりやすい人を見つけた。六年生の立花先輩だ。なんだか不機嫌な様子の立花先輩に近付くと、突然先輩が叫んだ。

「どうしてお前が同じチームなのだ…!」

私と三之助はビクッとして立ち止まるが、立花先輩はまだ私達に気付いていない。視線を辿れば、一年生の男の子がにこにこしていた。

「立花先輩、よろしくお願いしまーす!」

立花先輩はなんとか怒りをおさえたようで、大きなため息をついた。なかなかこんな立花先輩は見られない。私達が挨拶すると、立花先輩は顔を上げた。

「ああ、お前は体育委員の」
「五年のハニーです。こっちは、三年生の次屋三之助です」

七松先輩といるときに、立花先輩とは数回喋ったことがあった。私が紹介すると、三之助はぺこっと頭を下げる。

「立花仙蔵だ」
「ぼくは、一年は組の喜三太です!」

ふわふわした雰囲気の一年生の子は、喜三太というらしい。立花先輩とどういう関係なのか気になったけれど、次のチームメイトがやって来たため、その質問をすることはできなかった。

「二年、川西左近です。よろしくお願いします」
「四年の斉藤タカ丸だよ〜」

川西左近と言えば、去年私が一緒のチームになった保健委員の一人だ。私が苦笑いで左近を見ると、左近も苦笑いを返してきた。去年保健委員の不運に巻き込まれまくった私を覚えていてくれたらしい。そして斉藤タカ丸さんと言えば、15才だけど忍術の経験がないから四年生に編入した、髪結いの人だ。くのたまの友達が、見る度にきゃあきゃあ言っていたような気がする。私は中在家先輩のようながっちり系が好きなので、そういう反応はしなかったけど、こうして近くで見ると確かにかっこいい。しかしタカ丸さんは四年生であって、四年生でない。正直一年は組以下という話も聞くので、私のチームはちょっと不利だ。頼りの立花先輩も、何故か喜三太にタジタジだし。

学園長がチーム名をつけろと言うので、私達のチームは立花先輩によって水仙チームと名付けられた。ちなみに滝のいるチームはバラチームになったそうだ。その後小松田さんに配られた地図を見ると、チェックポイントは四つのようだ。地図と一緒に、チーム名が書かれた将棋の駒が一チームに一つ配られたのだけど、それが通行証代わりらしい。そしてチェックポイントを通過するまでに、他のチームの駒を奪わなければいけないというルールだった。最初のチェックポイントでは、自分のチームのものと、他のチームのものの二つ。その次のポイントでは、さらにもう一つ。そうやって、どんどん駒を奪いながら進まなければならない。駒を奪われたチームは脱落となるため、終盤になればなるほどチームは減っていき、残るのは強いチームになってくるので、駒を奪うのは大変になる。このオリエンテーリングは毎年ルールが変わるのが面倒だった。

「折り返し地点まで一日かかりそうだな。行きと帰りは別ルートで、ゴールが学園なのは、例年通りのようだ」

地図を眺め終えた立花先輩が言った。これが初参加のタカ丸さんは、へぇ〜と呟く。ルールをちゃんと理解してるかが不安だ。と、学園長がわざとらしい咳払いをしたので、私達は学園長に注目した。

「えー、出発順はくじ引きで決める。各チームの一年生、前に集まりなさい」

喜三太がちょっとびっくりして立ち上がった。すかさず立花先輩が、できるだけ早い番号をとってこいよ、と言った。運任せなのだからどうしようもないだろうけど、喜三太が保健委員でなかったのは幸いだ。それに喜三太はなんとなく、運が良さそうな顔をしている、気がする。実際くじを引いて戻って来た喜三太は、にこにこしていた。

「何番だ?」
「二番目です!」

喜三太は2、と書かれた札を得意そうに見せた。喜三太にブツブツ言っていた立花先輩も、まあまあだな、と喜三太の頭を撫でていた。

「一番は誰だったの?」
「しんべヱのアサガオチームです」
「朝顔と言うと…長次か」

言われて門を見れば、確かに中在家先輩が出ていくところだった。アサガオチームの紫の後ろ姿を見て、立花先輩が小さく舌打ちする。

「どうしたんですか?」
「朝顔チームに喜八郎がいる。落とし穴に気をつけろ」

左近の言葉に、表情を堅くした先輩が言った。作法委員の四年の綾部の作った罠は、立花先輩も認める出来なのだ。中在家先輩が見えなくなって少ししてから、三郎が二番目のチームは出発するようにと指示をした。私達は立ち上がり、先頭に立つ立花先輩について、門を出た。

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