私は今日から3年Z組になった。Z組と言えば、変人や問題児しかいないという噂で、一クラスだけ校舎が隔離されているという異質クラスだ。どうして凡人の私がそのクラスになってしまったかと言うと、私にもよくわからないけど、2年の時ほとんどの授業中寝ていたからかもしれない。こんなことなら真面目に受けていればよかった。ため息をつきつつ、他の教室よりも遠い3Zの教室を目指した。薄暗い渡り廊下を歩いていると、賑やかな声が聞こえてくる。ほどなくして、教室に到着した。一度深呼吸してから、扉を開けると、視線が私に集まった。

「新入りアルか!」

真っ先に私の前にやって来たのは、チャイナ風の女の子。中国から来た留学生の神楽ちゃんだ。留学してきた初日に、学食で食べ過ぎて出入り禁止になった有名人。

「珍しいな」
「アンタ何をやらかしたんでさぁ」

神楽ちゃんの後ろから言ったのは、風紀委員の鬼の副委員長こと土方くんと、同じく副委員長でドSと評判の沖田くん。彼らはかっこいいからと、ファンクラブもあるらしいけれど、それでも皆、近付こうとはしない。沖田くんなど、目を付けられたら終わりだと恐れられている。

「何もやらかしてないはずなんだけど…」
「そこは先生から説明しよう」

私の背後から声がして、振り返ると、タバコによれよれの白衣、ボサボサ頭の先生。坂田先生だ。皆に席に着くように呼びかけると、坂田先生は私の肩を掴み、教卓の横に立たせた。

「あー、見事に去年と同じ顔触れな訳だが、今年は新入りが一人います。ハニー、ご挨拶」
「え、あ、ハニーです」

急にふられて特に言うことが思い付かず、名前だけ言う。こういう辺りも私は普通の人なのだ。先生が私の席をどこにしようかと教室を見回していると、沖田くんが手を上げた。

「ハニーはなんで3Zになったんですかぃ」

やっぱりそこが気になるらしい。私も気になるので、坂田先生を見ると、ニヤリと笑った先生と目が合ってしまった。

「ハニーは先生のお気に入りだから、沖田くん達は手を出さないように」
「はい?」
「この前偶数廊下でハニーとすれ違った時、俺は運命を感じた」

それからすぐに、3年から3Zにしてくれるよう校長を説得した(脅した、と言いかけたのが気になる)、なんて平然と言う坂田先生に、私は何も言えなかった。坂田先生もアレだけど、許す校長も校長だ。話を終えた坂田先生は、何事もなかったかのように、また教室を見回す。クラスの皆も平然としていた。神楽ちゃんなんかお弁当食べてるし。私一人が混乱していると、坂田先生がよし、と言った。

「ヅラ、お前一番廊下側の一番後ろに移動な。で、ハニーはヅラの席」
「ヅラじゃない桂だ」

桂くんはいつも、エリザベスと言う不思議なペットを連れている人だ。このクラスの中で言えば、知名度は低い方かも。桂くんは特に文句も言わず荷物を纏めると、席を空けた。ちなみに教卓の真っ正面の席だ。後ろは沖田くん、横はいない。ただ鉄パイプがイスに立て掛けてあるので、なんとなく予想はついた。学校一の不良の高杉くん、だろう。私は席に着きながら、彼が登校して真面目に授業を受けないことを祈った。怖い噂だらけの高杉くんの隣で落ち着いて授業など受けられるはずがない。

「これからよろしくな」

顔を上げれば、にんまり顔の坂田先生。なんて、居心地の悪い席なんだろう。私は明日からの生活に不安を感じた。しかし、坂田先生は私にとても優しかった。3Zに早く慣れるよう気を遣ってくれたし、3Zに編入したことでちょっとした有名人になった私が、嫌な扱いを受けないよう色々頑張ってくれていたらしい。お陰で昔同じクラスだった友達からも妙な誤解などは受けなかったし、3Zでもそこそこ上手くやっている。たまにセクハラまがいな発言はするけれど、それでも私は坂田先生が好きになっていた。そんな話をお妙ちゃんにしたら、ハニーも立派に3Zらしい変人になってきたわね、と言われて、悲しかった。でも確かに、ある意味3Zの生徒以上に変人な坂田先生を好きになってしまった私は、誰よりも変かもしれない。でも私は今のこの、教卓前の席に居心地の良さを感じることができる現状を楽しもうと思う。


染まる
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