さっきからフェイタン、フェイタンと呼びかけているのに、フェイタンは本から目を離さず、気のない返事ばかり返してくる。本に負けたのが悔しくて、フェイタンの名前を連呼していたら、わたしはあることに気が付いた。

「フェイタンって名前さ、可愛いね」

「…いきなり何ね」

「だって名前の最後が、たんだよ!可愛いじゃない!フェイたーん」

「お前よぽど死にたいみたいね」

「ちょ、念はナシ!それにわたしが死んだらフェイタンが寂しいでしょ?」

「…」

「あれ、否定しないの?」

「ハニー、煩いよ。少し黙るね」

フェイタンは再び本に視線を戻してしまったけど、否定しなかったってことは、やっぱりわたしがいないと寂しいのかしら?え、フェイタンって名前だけじゃなくて性格も可愛い!

「フェイたんほんと可愛い」

思わず口に出してしまった。と、フェイタンがぱたんと本を閉じて、立ち上がった。やばい、さすがに怒らせちゃったかな?

「ご、ごめ…」

「ハニーたん」

「…え?!」

フェイタンはわたしに近付いてきたかと思ったら、そう言った。確かに言った。たん、って言った!

「な、なな何を考えてるのフェイタン!」

「そちがその呼び方変えないなら、ワタシもそう呼ぶね」

「いや今のは普通に名前を…っていうか、わたしはたん付けで呼ばれたって、フェイタン可愛いとしか思わないよ!残念!」

フェイタンは勝ち誇ったわたしの言葉なんか無視して、また本を開こうとした。しかしその時、シズクがわたし達を呼ぶ声が聞こえた。ご飯だ。お腹が空いていたわたしは、下の階に飛んでいった。のろのろとフェイタンもついてくる。階段を一つ飛ばしで降りると、シズクが廃材を机にして、料理を並べていた。

「あ、ハニー早かったね」

「うん!お腹すいた!」

わたしはマチの隣に陣取った。待ちきれなくてお皿に手を伸ばすと、マチにその手を叩かれる。と、そこにフェイタンが降りてきた。

「フェイタンも適当に座って」

「じゃあワタシ、ハニーたんの隣ね」

フェイタンが言った瞬間、空気が凍り付き、すぐに爆笑が響いた。わたしは顔が真っ赤になるのを感じた。みんなの前で言うとは!

「何それ、フェイタン!」

「ハニーたんの趣味ね」

「ハニー…そんな趣味が」

「ちちち違っ!ちょっと、恥ずかしいでしょフェイタン!」

「はは、じゃあ羞恥プレイね」

「羞恥プレイもハニーの趣味か?」

フィンクスの言葉に、シャルが吹いた。ふざけんな!怒りと羞恥のダブルパンチで赤くなっていたわたしの耳元に、フェイタンがそっと顔を寄せた。

「やるときは普通に呼んでやるよ、安心するね」

「そんなことは誰も心配してません!」




この後しばらく旅団で"たん"付けが流行ったのは、わたしの記憶の中でも最悪なものの一つであり、忘れたくても忘れられないものである。


教訓:軽い気持ちでフェイタンをからかってはいけない







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