(!)現パロ



今日は一日中晴れわたった青空が広がるでしょう、という天気予報は外れ、お昼前から空は曇り始め、帰りの時間には雨が降りだしていた。傘を持ってない人がほとんどで、土間には人が溜まっている。わたしも傘は持っていないけど、今から風紀委員会の集まりがあるので、どっちにしてもまだ帰れない。帰るまでに、上がるといいんだけど。




「今日はこれで解散だ」

委員長の立花先輩がそう告げた。集まっていた生徒達がバラバラと立ち上がる。わたしが窓を開けてみると、まだ雨は降っている。はぁ、とため息をついたとき、後ろから肩を叩かれた。

「ハニー」
「あ、立花先輩」
「書類の整理を頼めないか?」

急がないと、予備校の授業に間に合わないらしい。立花先輩は、有名な難関大学の法学部を目指しているという噂は聞いていたので、わたしはそれを引き受けた。残念なことにわたしは、一年の時も風紀委員をやっていたからという理由で、副委員長を押し付けられていたのだ。すまないな、と言いながら教室を出ていく立花先輩を見送ってから、わたしは書類の山を見た。ああ、これ整理してたら、雨止むかな?




というわたしの淡い期待は、一時間半後、あっさり打ち崩された。雨足はさっきより強くなっている。少しだけ立花先輩を恨めしく思いながら、土間に向かう。いつもなら埃を被っている、置き忘れられたビニール傘も、今日は持って行かれていた。仕方ない、走って帰るしかない。そう思って、上履きをローファーに履き替えて、雨の中を門まで走る。と、わたしは門の前に、傘を持って立っている人を見つけた。つい立ち止まってその人を見ると、その人もこっちを向いて、目が合った。

「あ、」
「おやまあ、先輩」
「綾部くん」

それは同じ風紀委員の後輩の、綾部くんだった。紫の傘なんて、意外と派手な趣味をしている。

「ずぶ濡れですね」

まじまじとわたしを見る綾部くん。正直綾部くんは、何を考えているかわからないから、ちょっと苦手だ。

「傘を忘れたの。綾部くんは、こんなところでどうしたの?委員会は随分前に終わったじゃない」

わたしが聞くと、綾部くんは無言でわたしから視線を逸らして、門の前の車道を見た。そのまま、なかなか答えてくれない綾部くん。こういう不思議ちゃんなところが、よくわからなくて苦手なのだ。先輩が濡れているというのに。

「もしかして、彼女とか待ってるの?」
「…車を」

沈黙に耐えられなくなったわたしが声をかけると、綾部くんがぽつりと呟く。

「車を?」
「白い車を数えていたんです。一時間半で、28台通りました」
「……そ、そう」

どうしてそんなことを、と聞く気も失せてしまった。それに、さすがに寒くなってきた。それじゃあそろそろ行くね、と言いかけて、一つくしゃみが出る。と、綾部くんがわたしに近付いて、傘の下に入れてくれた。

「でも車を数えていたのは暇つぶしです。本当はハニー先輩を待ってました」
「え」
「立花先輩に書類の整理を頼まれていましたよね」

そう言う綾部くんは、タオルまで渡してくれた。頭が混乱する。聞きたいことがたくさんあって、とりあえず頭に浮かんだ言葉から声にする。

「知ってたの。なら、教室で待っててくれたら、よかったのに」
「整理を手伝うのは御免ですから」
「それに傘に入れてくれるなら、もう少し早く入れて欲しかったな」
「雨に濡れる先輩がセクシーだったので」

なんてことを言うんだ、この子は。タオルで頭や体を拭いて、ようやく落ち着いてきたわたしが、一番聞きたかったことを聞こうとすると、先に綾部くんが口を開いた。

「好きです」

あまりに真顔で言うものだから、少し赤くなってしまった。いや、綾部くんはいつでも真顔だけど。わたしが答えられずにいるのも気にせず、綾部くんは続ける。

「よかったらこのまま、家まで送りますよ」

ずぶ濡れか、綾部くんか。答えは意外とすぐに決まった。実際話してみれば、そんなに苦手な感じもしないし、不思議ちゃんだけど彼は真面目だ。少し照れながら、それじゃあよろしくね、と言えば、綾部くんは嬉しそうに笑った。綾部くんの笑顔を初めて見たけど、とっても可愛い笑顔だ。歩き始めたわたし達の横を、白い車が一台通り過ぎる。

「あ、29台目」

綾部くんはまた真顔に戻ってしまったけど、口調がなんだか嬉しそうだった。やっぱり綾部くんはよくわからない。











Thank you 4000hit!
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -